平安時代から江戸時代に制作された名刀を紹介する企画展「鐡華繚乱(てっかりょうらん) ものゝふの美」(実行委、徳島市、徳島新聞社主催)が2月12日まで、徳島市の徳島城博物館で開かれている。東京富士美術館が所蔵する国指定重要文化財の太刀など50点余を展示。作品の一部を紹介する。
太刀「銘 有綱」 手元に反り 上品な姿
日本の刀剣は、その優美な姿が美術品として高く評価されてきた。「武士の魂」という言葉があるように、特別な精神性を見いだす人は多い。長い歴史の中で、現代人が「日本刀」としてイメージする形に定まったのは、約千年前の平安時代とされる。
太刀(たち)「銘 有綱」は平安時代の伯耆国(ほうきのくに)(鳥取県)で作られた。今回の展示品では最も古いものだ。日本の刀剣史の中でも古く、国重文に指定されている。有綱は、日本刀の草創期を代表する刀工・安綱の子孫ともいわれる人物。
山陰地方は鋼の材料となる砂鉄の産地として知られ、多くの刀工と名刀を生み出してきた。刀身の腰(手元近く)に反りがつき、先端に向かって細くなる姿は上品だ。刀の反りは敵を切りやすくする意図から生まれたとされる。
太刀「銘 一」 花のような刃文特徴
展覧会には、3振りの国指定重要文化財が出品されている。太刀「銘 一」は、その中の1振り。茎(なかご)(手で握る部分)に「一」と銘があり、鎌倉時代前中期に備前国(岡山県)福岡で栄えた流派「福岡一文字」が作ったことを示す。
この太刀は、刃の焼き入れでできた「刃文」に特徴がある。丁子(ちょうじ)の実に似た模様が重なり、花のように見える「重花(じゅうか)丁子」という刃文が見どころだ。
備前国は古くから刀の産地として有名で、ほかに大和(奈良県)山城(京都府)美濃(岐阜県)相州(神奈川県)が主な産地として知られる。これらは「五箇伝(ごかでん)」といわれ、姿や刃文などにそれぞれの特徴があるため、五箇伝を知ることが刀剣鑑賞の基本とされている。展覧会では五箇伝の刀が全てそろっている。
太刀「銘正恒」 銘を裏側に折り返し
刀の茎(なかご)(手で握る部分)には、作者や製作地、製造年などの銘が刻まれることがある。太刀(たち)「銘 正恒(まさつね)」は、この銘が面白い。後世に刀を手にした持ち主が、刀が長すぎる場合に自分に合うよう縮めることがあった。この時に銘がなくなるのを惜しんで裏側に折り返した。これを「折り返し銘」という。
正恒は、平安時代の備前国(岡山県)で活躍した刀工。徳島とも縁が深く、かつて蜂須賀家も正恒の刀を所有し、その刀は現在、国宝に指定されている。
銘では、刀「銘 長曽祢(ながそね)興里(おきさと)入道(にゅうどう)乕徹(こてつ)(金象嵌(きんぞうがん))寛文五年十二月十六日 山野加右衛門六十八歳永久 四ツ胴截断」も目を引く。著名な乕徹(虎徹)の作で、江戸幕府の役人山野加右衛門が、試し斬りで4人分の胴体を切断したと金字で刻まれている。名刀の切れ味もさることながら、当時68歳という年齢を感じさせない剣技も興味深い。
拵「黒蝋色塗鞘大小拵」 伝統工芸の粋を凝縮
刀身を納める外装を拵(こしらえ)といい、武士の美意識や身分が最もよく表れた部分といえる。
柄(つか)や鐔(つば)、鞘(さや)、縁頭(ふちがしら)、目貫(めぬき)、目釘(めくぎ)、切羽(せっぱ)などいくつもの部品が組み合わさる。わずかな空間に伝統工芸の粋が集められ、美術的な価値も高い。
「黒蝋色塗鞘大小拵(くろろういろぬりさやだいしょうごしらえ)」は、武士の大小(刀と脇差し)をそれぞれ納める拵で、正装用として作られた。鞘に塗られた黒い漆(うるし)が上品に輝く。
鐔にはボタンとチョウ、ネコの装飾があしらわれている。中国の古典に由来し、絵画のモチーフとしてよく用いられた。居眠りをするネコは毛並みが細やかに表現され、表情もかわいい。刀の持ち主は、絵にどんな思いを重ねたのだろうか。
薩摩藩お抱えの金工職人石黒政美の作。刀に添える小柄(こづか)と笄(こうがい)は、江戸の金工職人・柳川直正が手掛けた。
甲冑「紫糸威大鎧」 「復古調」華麗な外観
展覧会では、徳島藩主蜂須賀家ゆかりの武具も展示される。蜂須賀家は1585(天正13)年、家祖正勝が豊臣秀吉から阿波国を与えられ、子の家政が入国。徳島城を築き、後に阿波・淡路両国25万7千石を治める大名に成長した。
徳島市の有形文化財「紫糸威大鎧(むらさきいとおどしおおよろい)」は、8代藩主・蜂須賀宗鎮(むねしげ)(1721~80年)が所有した甲冑だ。日本独特の鎧が整った平安時代から、鎌倉時代にかけての大鎧を模した「復古調」と呼ばれるデザイン。華麗な外観は、大名の威厳を象徴するかのようだ。胴を飾る弦走韋(つるばしりのかわ)に、江戸時代を代表する絵師円山応挙が描いた獅子の絵が配されている。
宗鎮は讃岐高松藩主松平頼桓(よりたけ)の弟で39年に徳島藩主蜂須賀宗英(むねてる)の婿養子に迎えられた。54年、弟の至央(よしひさ)に跡目を譲り、隠居後60歳で死去した。=おわり
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