「人類哲学」の確立という壮大なテーマも、この人ならやり遂げられたのかもしれない。哲学者の梅原猛さんである。縄文から近代までを貫く、「梅原日本学」と呼ばれる独自の思想を切り開いた異能の人が、93歳で亡くなった

 自然を奪い尽くす近代文明に未来はない。その基礎になる西洋哲学は、人間さえ良ければ、といった人間中心主義の誤りに陥っている。それを克服する考え方が、日本の思想の中に眠っていないか。探し続けて半世紀

 「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」。人間や動物はもちろん、草木や土石のような心を持たないものでも仏になれる。日本の思想の根本はこれだ、とたどりついた答えである

 それを西洋哲学と対決させ、新たな体系を構築する。その作業のさなかに、東日本大震災が起きた。原発事故は、豊かで便利な生活を追い求めてきた近代文明の帰結、「文明災」だ。そう訴えて脱原発を説いた

 軍隊経験もあり、平和憲法を守る「九条の会」の呼び掛け人になった。吉野川第十堰(だいじゅうぜき)の可動堰化が浮上した際には反対の声を上げた。行動する哲学者だった

 <自然を恐れ、自然を敬い、自然の力を多分に享受し、自然に感謝を捧げる>(「老耄(ろうもう)と哲学」文春春秋)。自然と共存する新しい文明の範を世界に示そう。「人類哲学」は未完に終わったが、目指すところは明らかだ。