こけむす岩  一面に点在

上勝町の山犬嶽(997㍍)は、こけむす岩が点在した中腹斜面と、西峰からの眺望のよさが魅力という。気軽に往復できるというので北島町中村の日本山岳会会員田村直人さんに先導してもらった。

麓の県道から棚田の間を車でくねくねと上り、登り口にたどり着いた。一帯は「樫原の棚田」と呼ばれ、日本の棚田百選と国の重要文化的景観に認定されている。「山犬嶽の土と水がいい養分になっているんだろう」と田村さん。

案内板の情報を仕入れ、往路はハイキングルート、復路は参道をたどることに決める。出発するとすぐに分かれた道を右に進んだ。

江戸時代に崩れたと伝わる山犬嶽だが、それらしい景色には出合えない。しかし、植林地から自然の林に入ると、辺り一面、大小の岩ばかりとなった。道は岩と岩の間や靴を置きやすい石の上を選び、うまい具合に付けられている。

田村さんは「崩れ落ちて散らばった岩々だ。その後、数百年の歳月をかけて自然庭園が完成した。人間が築こうと望んでも簡単には造れないはず。いつまでも残ってほしい」としみじみと話した。

眼前に家ほどもある巨大な岩が立ちはだかった。下に岩穴があり、奥に金比羅神社があった。鳥居とほこらが真新しく、今も地元住民の信仰を集めていることを示していた。

見晴台となった大岩に上がると、紅葉が始まった広葉樹の林が見渡せた。ずっと上には頂が見え、まるで手招いているようだ。

ミニ四国八十八カ所の石仏を巡る細い道に迷い込まないよう注意して歩き続ける。高さ7、8㍍ある直立した岩の上に石鎚神社のほこらがあるというので寄り道をすることに。垂れ下がる鎖を強く握り、岩肌にできたわずかな幅の棚に足先を掛け一歩一歩、上へ。

「本家の石鎚山にはかなわないが、ちょっとしたスリルを味わえる。中腹だけでも変化に富んだ山だ」と田村さんは感激いっぱい。

道は参拝ルートと合流し、杉林のトンネルを過ぎると東光寺に到着。大師堂の脇に「高野山遙拝所」と書かれた石柱があるが、本当に見えるのだろうか。

山頂までは約10分で着いた。修験道の開祖、役行者の石造物がまつられていて、かつての修行場だったことを教えてくれた。

細い尾根道をたどり、西峰を目指す。下り坂に落ち葉が積もり、田村さんが「滑りやすい」と何度も忠告。所々、木の根が隠れているから厄介だった。尾根の南側が断崖だと分かると一層慎重になった。

ピークからは絶景が広がった。評判通りだ。橘湾と太平洋が望め、眼下には広葉樹が覆うこけ庭が見えた。先ほどまでいた展望岩が小さかった。

「千㍍にわずかに3㍍足りず決して高い山とはいえないが、見どころに恵まれ、登る価値は高い。やがて紅葉シーズン。大勢の人々が胸躍らせるだろう」

ただ、田村さんは静かな山を好むそうで、誰にも会わなかったこの日の山行に満足したようだ。帰りもゆっくりこけを堪能しながら参道を下った。所要時間は3時間半だった。

(登山日は11月18日、尾野益大)