謎の浮世絵師・東洲斎写楽のデビューを飾った役者大首絵28点には、二人立ちの半身像を描いた作品が5点ある。その一つ「中島(なかじま)和田右衛門(わだえもん)のぼうだら長左衛門(ちょうざえもん)と中村(なかむら)此蔵(このぞう)の船宿(ふなやど)かな川(がわ)やの権(ごん)」は写楽初期の傑作として知られる。

2人の対比 ユニーク
東洲斎写楽「中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と中村此蔵の船宿かな川やの権」(寛政6年、縱62・5センチ×横52・5センチ、中右コレクション)

右側に描かれた中島和田右衛門は痩身(そうしん)、下がり眉に、わし鼻。左側に配された中村此蔵は肥満、上がり眉、獅子鼻。2人の対比がユニークに表現されている。

寛政6(1794)年5月上演の狂言「敵討乗合話(かたきうちのりあいばなし)」に取材した本作品も主役ではなく、端役2人をモデルにしており、こうした点に写楽の発想の独自性が際立つ。背景は、贅(ぜい)を尽くした「雲母摺(きらず)り」が施されている。

作品が世に出たのは老中松平定信の「寛政の改革」の頃で、贅沢品の禁止など、風紀の取り締まりが厳格化されていた。写楽の版元・蔦屋重三郎は出版統制に伴う財産没収の憂き目に遭い、倒産寸前だったという。

国際浮世絵学会の中右瑛(なかうえい)常任理事は「危機的状況なのに、なぜ端役者の絵を雲母摺りの豪華版で出版したのか。写楽を巡る謎として非常に興味深い」と話す。

浮世絵展「写楽・歌麿とその時代 美人画と役者絵」は8月4~22日、徳島市のあわぎんホール。

(2017年7月31日掲載)

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