謎の浮世絵師・東洲斎写楽のライバルとして、同時期に役者絵で活躍したのが初代歌川豊国(うたがわとよくに)(1769~1825年)だ。今回紹介するのは、豊国の出世作にして代表作「役者舞台之姿絵(やくしゃぶたいのすがたえ)」の連作から「はま村(むら)や」。写楽のデビューに先立ち、寛政6(1794)年正月から刊行を始めた連作約50点の一作だ。

役者美化の正統表現
歌川豊国「役者舞台之姿絵 はま村や」(錦絵大判、縦54・5センチ×横43・0センチ、中右コレクション)

 モデルは、この年11月公演の歌舞伎「閏訥子名歌誉(うるおうとしめいかのほまれ)」の三代目瀬川菊之丞。役者を美化して表現する当時の常道を行く正統派の画風だ。役者を誇張・戯画化し、迫真性を重視した写楽の大首絵と比較して鑑賞すると面白い。

 役者に理想像を求めた当時の歌舞伎愛好家には、豊国の作品が受け入れられたようだ。写楽がわずか10カ月で表舞台から姿を消した後も、豊国は1年以上、「役者舞台之姿絵」の連作刊行を続けた。

 一方の写楽も、大判の役者大首絵28点を一気に世に問うたデビュー作以降の作品では、豊国の画風を取り入れた形跡が見受けられる。

 国際浮世絵学会の中右瑛(なかうえい)常任理事は「デビュー前の写楽も豊国の役者絵を見たはず。写楽が豊国の影響を受けたと考えると、豊国の作品は今後も研究の余地がある」と話している。

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 浮世絵展「写楽・歌麿とその時代 美人画と役者絵」は4~22日、徳島市のあわぎんホールで。

   (2017年8月1日掲載)

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