中国の大学研究者が、遺伝子を狙い通りに改変するゲノム編集技術を使って双子を誕生させた。中国当局の調査チームによると、別の女性1人も妊娠中だという。

 しかし、ゲノム編集の技術水準はいまだ安全性や有効性に不明な点が多く、人間の子どもを誕生させる段階には至っていない。

 そうした中、中国の研究者は独断で父親の遺伝子を操作して妊娠、出産させた。理由は何であれ、国が禁止している生殖目的のゲノム編集を行った言語道断の無責任極まりない行為だ。

 人類の将来に多大な影響を及ぼしかねない深刻な事態である。当然ながら、問題は中国だけにとどまらない。国際社会は毅然とした姿勢で対処するとともに、同じ事態を繰り返さないための対応策を急がなければならない。

 気になるのは、中国の調査チームがどんな手続きで双子の誕生を確認したのか明らかにしていないことだ。生まれた子どもは、研究者が意図しなかった他の遺伝子が改変されている可能性もある。

 中国当局は双子誕生の経緯をしっかりと説明すべきである。その上で、子どもに異常がないかどうか医学的観察を続けていく必要がある。

 ゲノム編集は、特定の遺伝子を簡単に狙える画期的な技術が開発された2012年ごろから、研究開発分野で利用が広がった。難病の治療や農水産物の品質改良などへの応用が期待されている。

 とはいえ、遺伝子の改変を人の治療に応用する際は、高い安全性の証明はもちろん、他に代えがたい必要性を示さなければならないのは言うまでもない。

 精子や卵子、受精卵の遺伝子を改変すると、影響は世代を超えて子孫に引き継がれる。誤った遺伝子改変で重い病気を発症すれば取り返しがつかない。

 ゲノム編集には人類という種の未来に関わる極めて重い倫理的問題が絡んでいる。世界の研究者は、遺伝子の改変が重大な人権問題に発展する恐れがあることを肝に銘じてもらいたい。

 中国で起きたこうした事態は、日本国内でも起こり得ると考えるべきだろう。

 日本政府は、受精卵などの遺伝子改変について、生殖補助医療目的の基礎研究に限って認める一方、改変した受精卵を子宮に戻すことを禁止する指針をまとめた。

 ただ、指針のレベルでは強制力が弱く、実効性に疑問符が付く。既に指針を設けていた中国で今回の事態が起きたことを直視すれば、罰則のある法律で禁止する必要があるのではないか。

 世界保健機関(WHO)はゲノム編集に関する科学や倫理、法的な問題点を検討するため、専門家による委員会を設置すると表明した。

 求められる安全性のレベルはもとより、国際的な規制や適切な監視の方法などについて徹底審議を求めたい。