ゲストハウスとしてオープンさせる民家の前に立つ井上さん。周りには絶景が広がる=三好市西祖谷山村今久保

 平成最後の年が明け、5月には新たな元号がスタートする。新時代を担う平成生まれの若者を訪ねた。

 徳島県内有数の観光名所「祖谷のかずら橋」に近い急斜面で、民家の改修が進む。家の前は向かいの斜面の集落が広がり、視線を落とせば祖谷川が流れる。「絶景でしょう」と出迎えてくれたのが、家主の井上琢斗さん(28)=三好市西祖谷山村今久保=だ。4月にゲストハウスとしてオープンさせる。

 現在の肩書は二つある。同市地域おこし協力隊と、県西部で観光ツアーを企画する会社「AWA―RE(アワレ)」(美馬市)の共同創業者。3月末で協力隊の任期が終わり、会社での活動を本格化させる。

 大学進学時には思いもよらなかった道だと言う。選択を変えてきたのは、さまざまな出合いだった。

 徳島市出身。城北高校を卒業後、徳島大工学部に進学した。母が看護師をしていた影響やものづくりへの興味から、医療機器の開発に関心を持った。

 大学院生の時には、世界に日本の医療を提供している日本医療開発機構(東京)の活動に引かれ、カンボジアでの医療支援に加わる。この行動が人生の分岐点となる。

 官民の留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」を利用するため、研修に臨んだ。学生でありながら起業するなど志の高い人たちと同じ時間を過ごし、刺激を受けた。カンボジアでは、人材の大切さを痛感する。「現地の人が直接伝える方がコミュニケーションもスムーズだし、理解も早い。現地のリーダーを周囲が信頼し、医療レベルが上がっていく姿に感動した」。制度や技術も重要だが、人を育てることが社会の力になると確信した。

 学生時代には、徳島や地方の素晴らしさにも気付く。高校生の頃から県外への憧れがあったため、休日には出掛けようとバイクを購入。慣らし運転で県内各地を訪れたところ、自然や文化の奥深さを知る。「今まで知らなかったことを後悔した。次の世代には味わってほしくない」と思った。

 起業、人材育成、地方の魅力発信・・・。やりたいことを目指し、大学院修了後の道に選んだのが「地域おこし協力隊」だ。着任後は、地域の食材を使ったスイーツ作りや登山道の整備などに取り組んだ。「AWA―RE」は2018年4月、志を同じくする協力隊員や元隊員と共に設立した。

 ゲストハウスは、案内所の機能を持たせるほか、地元住民と連携した体験プログラムを用意し、拠点にして滞在型の観光を楽しんでもらう。研修機能も備え、実体験を通して地域を担う人材を育成する。

 好きな言葉は「一燈照隅 万燈照国」。1人の明かりは隅しか照らせないが、万人の力を合わせれば国全体も照らせるという意味。小さな試みでも、モデルとなって地方創生の取り組みが広がれば、大きな力になると信じている。