Uターンして林業に従事する石川さん。自然に囲まれた中で木を切り出していく=海陽町小川上樫木屋

 山深い集落から離れ、車1台がやっと通れる林道を進む。途中からは舗装されておらず、携帯電話の電波は届かない。

 徳島県那賀町に近い海陽町小川上樫木屋。海部森林組合の石川祥大さん(25)=同町神野=は、「ハーベスタ」と呼ばれる機械に乗り、作業に追われていた。架線で運ばれてきたスギの枝を一気にそぎ落とし、一定の長さに切ってトラックに積み込んでいく。

 「自然に囲まれた開放感が気持ちいいですね」。そう話すのは、2年前まで大阪府にある大手菓子メーカーの工場で働いていたためだ。「以前は閉ざされていましたからね」と続けた。

 同県阿南市長生町で生まれ育った。阿南高専建設システム工学科に進学し、就職先は「食品に興味があり、面白そうかな」という理由で決めた。

 充実していた日々を送っていた中、慣れていた部署からの異動を告げられ、戸惑った。「もともと一度は県外に出たかったけど、将来的には徳島に戻ろうと思っていた。想定より早かったですが、帰る決断をしました」

 帰郷後の進路は、あまり迷わなかった。実家が製材業を営み、小さい頃から木の温かさが好きだった。家業を継いでいた兄から、県が担い手の養成機関として設けていた「林業アカデミー」の存在を知らされる。「木に携われ、勉強する場もある」として林業への道を目指し、2017年4月、アカデミーの2期生として入校した。

 1年間、知識や技術を学んだ後、海部森林組合に就職。毎日午前6時半に自宅を出発して現場に向かい、午後4時すぎまで作業に従事する。現在は夏に伐採した木を、順次出荷している。

 「当然ですが、アカデミー時代とは、厳しさが全然違います」と言いつつ、「大木を切り、大型の機械に乗って運び出す。迫力があって楽しいです」と魅力に引き込まれている。

 初めて木を伐採した時は今でも覚えている。約50年間育てられた大木が切り倒され、同時に吹く風を全身で感じた。「想像以上の風圧で、自然のすごさみたいなものに感動しました」と話す。
 心掛けているのは「弱音を吐かない、愚痴をこぼさない」。中学時代、陸上部の顧問の先生から「マイナス思考だと成長しないぞ」と指導され、以来心に刻む。

 県内の森林は多くが伐採期を迎えながら、人手不足のため十分に供給できていない。アカデミーは1期生11人、2期生13人で、1人を除いて県内で働く。現在の3期生は13人が励み、うち2人は初めての女性。貴重な戦力になっているが、定員(20人程度)には満たない状況が続く。

 「林業に興味があるとかないとか言う前に、どういう仕事かを知らない人が多く、まず知ってもらいたい」と力を込め「若い世代で盛り上げていけたらいいですね」。昭和に植えられた木は、平成を経て新たな時代を迎える。山を守り育てる人たちのリレーが続く。