北野武監督の映画「HANA-BI」の公開に合わせて徳島新聞が1997年に行った大杉漣さんのインタビューを掲載します。

ありのままを表現したい

 京都で撮影中の「極道の妻たち・決着(けじめ)」(中島貞夫監督)の合間を縫って、1年ぶりに里帰りした。準主演作「HANA―BI」が話題になっている最中の帰郷だけに、「マスコミに騒がれるのでびっくりしました。でも、昔の友達に祝福されるのは格別ですね」と笑顔を見せる。

「HANA―BI」は、北野監督(ビートたけし)ふんする中年刑事の周りで起きる悲劇を通して、人間の”生と死“を描いた作品。北野映画に4度目の出演となった今回は、主役の刑事の同僚で、犯人に撃たれて下半身不随になる役を演じた。家族に捨てられ、絵をかくことをよりどころに生きていくという難役を、抑制の効いた演技で好演している。

グランプリ受賞は、所属事務所から聞いた。「北野監督は以前からヨーロッパで評価されていたので驚かなかった。でも、大手会社の配給じゃなく、独立系の作品がグランプリを取ったことに深く感動した」という。これまで「無能の人」(竹中直人監督)、「弾丸ランナー」(サブ監督)など、才能豊かな若手監督の作品や、地味ながらも良質の映画に好んで出演してきた大杉さんらしい答えだ。

城北高校に在学中は、サッカーに打ち込むスポーツマンだった。1970年に高校を卒業してすぐ上京。たまたま見た劇団・現代人劇場(蜷川幸雄主宰)の前衛劇が大杉さんの運命を変えた。「田舎の青年にとってはあまりに衝撃的でした。そのとき、芝居がやりたいと強く思ったんです」。

七四年、「転形劇場」(太田省吾主宰)に入団、沈黙劇に取り組んだ。演劇活動のかたわら、七八年、にっかつロマンポルノで映画デビュー。1988年の劇団解散後は、本格的に映画やテレビドラマに進出し、これまで二百本以上の作品に出演している。

北野監督とは4年前、同監督の映画「ソナチネ」のオーディションで出会った。「北野監督の映画はせりふが少ないんですが、言葉以上に多くのことを訴えかけてくる。僕がやっていた沈黙劇に通じるものがあったので、ぜひ一緒に仕事がしたかった」という。

ところが、肝心のオーディションに遅刻。落選は当然とあきらめていたところへ、主人公の右腕のヤクザという重要な役柄が舞い込んできた。「北野監督が僕の方を見たのは2秒ほどだったんですが、目を気に入ったというんです。よほど目つきが悪かったんですかね」と笑う。

「ソナチネ」の渋い演技で北野監督の信頼を得て、その後、3作立て続けに起用された。今や北野映画には欠かせぬ存在だ。

「北野監督はどなったり、無理な要求をしたりしないんですが、ダメなシーンは一切使わない厳しさを持っている。北野監督ほど生と死を深く考えさせる映画を撮れる人はいないでしょうね。一緒に映画づくりができることを誇りに思います」。すらりとした体形、よく響く低音、サングラスの中からのぞく目つきは鋭い。一見、悪役が似合いそうな雰囲気だが、「普通の役も多いんですよ」(笑い)。

現在、公開されている「ポストマンブルース」(サブ監督)や「ご存じ! ふんどし頭巾」(小松隆志監督)などにも出演しており、「助演男優賞をもらってもおかしくない」(「キネマ旬報」10月下旬号)と高い評価を得ている。

これまでメジャー映画の主演はなかったが、「HANA―BI」の評判で、来年以降は主演作品もいくつか予定されている。

しかし、うぬぼれた態度はみじんも見せず、「人との出会いを大切にして、常に刺激を受けつづける役者でいたい。自分のありのままを表現する演技を目指して、地味な作品でもどんどん出演していきます」。その言葉に、実力派俳優としての強い信念と誇りが感じられた。