米ソ冷戦時代に両国間で地上配備の中・短距離ミサイルの廃棄を定めた中距離核戦力(INF)廃棄条約が、崩壊の危機を迎えている。

 トランプ米政権は、ロシアが条約で規制されているミサイルを開発・配備しているとして昨年12月、「60日以内」に違反を解消しなければ破棄を通告するとしていた。

 それを受けた米ロの次官級協議が先月末に行われたが、進展は得られなかった。

 米国が指定した「60日以内」の期限はきょうまでで、規定では正式通告の6カ月後に条約は失効する。

 30年以上にわたり世界の安全保障の礎となっていた条約が破棄されれば、冷戦期のような歯止めのきかない核軍拡競争に陥る恐れがある。

 両国は外交努力を続け、条約維持に向け妥協点を探ってもらいたい。

 米政権が条約違反と主張しているのは、新型の地上発射型巡航ミサイル「9M729」だ。射程が条約で禁じる500~5500キロに入るとして、廃棄か射程の短縮を要求していた。

 協議の中で米側は、ロシア側がミサイルの射程は480キロと述べていることについて「確認できない」と指摘。これに対し、ロシア側は「条約に違反していない」とした上で、逆に米国が欧州に配備したミサイル防衛(MD)システムを条約違反と主張するなど、平行線のままだった。

 条約を巡っては近年、双方が違反しているとして批判。新兵器の開発に伴い、条約の役割が低下しているとの指摘もあり、両国とも破棄を見据えた軍備計画を進めている。軍縮への意欲が感じられず、憤りさえ覚える。

 トランプ政権は昨年2月に公表した核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」で、戦術核を増強するロシアに対抗するため、「使える核兵器」と称される小型核の開発を盛り込んだ。

 米の核安全保障局はこのほど、潜水艦発射弾道ミサイルに搭載する、爆発力を抑えた小型核弾道の製造を始めたことを明らかにした。

 現行の核弾頭の爆発規模が約100キロトンなのに対し、小型核弾頭は5~7キロトン。広島に投下された原爆は約15キロトンと言われる。小型とはいえ威力は十分に強く、相手に大型の核弾頭で反撃される可能性もある。核使用のハードルを下げることになりかねず、危惧される。

 米国が条約破棄に傾いた背景には、対ロシアだけでなく、条約に縛られずにミサイル開発など軍備を拡大する中国の存在も大きい。

 米国はこれまで、中国に対して何度か条約に加わるよう求めてきたが、失敗に終わったという。

 トランプ政権は中国やロシアとの「大国間競争」を重視しており、軍縮機運の後退は避けられない状況だ。国際社会は早急に、中国も含めた新たな軍縮の枠組みを検討する必要がある。