祖母のさよ子さん(左)から孫の真喜子さん(右)、直嗣さん(中)夫婦に事業承継した「めん処玉好」=小松島市中田町内開

 2010年、店を切り盛りしていた父親が53歳で急逝した。小松島市のうどん店「めん処玉好」代表取締役の泉真喜子さん(40)は当時32歳。店には祖母のさよ子さん(80)と自分が残された。

 「いずれは自分が継ぐ考えはあったが、戸惑いは大きかった」と真喜子さん。10年余り店を手伝ってきたとはいえまだまだ経験が浅い。「どうすれば、これから店を続けていけるのだろうか」と不安が募った。

 店は1976年、さよ子さんが徳島市南昭和町に開いた。81年に同市丈六町、85年には小松島市に店をオープン。その後、南昭和町店を従業員にのれん分けし、丈六店も麺やだしの提供にとどめて他人に委ね、小松島店と2000年に同じ敷地内に出したそば店が経営の中心となった。なじみ客も多く、経営は順調だった。

 さよ子さんは一人息子の晶一さんに、亡くなる7年ほど前から仕入れや金融機関とのやり取りなどを任せ、跡取りとして経験を積ませた。晶一さんが亡くなったのは、さよ子さんが「そろそろ引き継ごうか」と考えていた矢先だった。

 真喜子さんへの事業承継は急がなかった。さよ子さんが店を切り盛りし、代表者の交代へと動き始めたのは17年。真喜子さんが仕入れなどを担うようになり、夫の直嗣さん(35)も会社を辞めて店に入っていた。家族全員で承継後の経営体制も考えた。うどん店とそば店の2店舗を運営していくにはアルバイトの募集や教育に手間がかかり、設備の維持更新も負担になる。「思い入れはあるが統合しよう」と決めた。

 具体的な手続きは18年4月に始め、小松島商工会議所と、とくしま産業振興機構の「県よろず支援拠点」が力になってくれた。

 改装には中小企業庁の事業承継補助金活用を勧められ、全国374件のうち1件に採択された。金融機関との交渉やメニューづくり、パンフレット作製なども助言を受けた。8月には登記や保険の名義変更も終了し、11月に新装開店した。

 新店舗は、鉄骨2階建てのうどん店を改装し、エレベーターを取り付け、使わなくなっていた2階を宴会場に変えた。座敷席が主だった1階は、足腰に優しいようにテーブル席を増加。トイレは和式から洋式に変え、おむつ台やベビーシートを設置した。

 代替わりを成長のきっかけにしようと、「県外からも食べに来てもらえる店」を目指し、ハモやイカといった地元食材を使った地産地消メニューを徐々に増やしている。評判が良いおはぎの持ち帰りも始めた。

 変わらないこともある。うどんやそばは国産原材料のみ。だしは晶一さんが残したレシピを基に、さよ子さんから直嗣さんに作り方を伝授している。

 中小企業では親族間で事業を引き継ぐケースが多い。帝国データバンクの18年10月時点の調査では、後継者が決まっている県内企業の80・6%が親族を候補としていた。

 県よろず支援拠点の井上秀二コーディネーターは「先代の目が届くうちに引き継ぎを始めると、準備期間を長くとることができ、その後もうまくいくケースが多い。後継者が若い感覚を持ち込むことで、新事業の創出や事業拡大を進めるチャンスにもなる」と話している。