朝湯に備え清掃作業

 国内外の入浴客でにぎわう松山市の道後温泉。観光地として知られるが、地元に豊かな温浴文化を築いてきた存在でもある。その一つが、夜明けとともに湯につかる「朝湯」の習慣。常連客が毎朝列をつくる道後温泉本館では、一番風呂を目指す地元客を出迎えようと、深夜にひっそりと準備作業が行われている。

5月中旬。最後の客が施設を出た午後11時ごろ、松山市から委託を受けた清掃会社の従業員が姿を現した。北海クリーンサービスの社員鶴井康善さん(35)とアルバイト西川昌吾さん(28)。むわっとした高温多湿の浴室を隅から隅まで掃除する。広い風呂場での作業は体力勝負。午前2時すぎまで5カ所の浴室を汗だくになって磨いた。

道後温泉には足を傷めたシラサギが湯で傷を癒やしたという伝説が残る。「本館から出てくる観光客を見ると、もっと頑張ろうと思える」と作業を12年続ける鶴井さん。朝湯を楽しむ入浴客の姿を見ることなく、2人は静まりかえった深夜の道に消えていった。(写真と文・柳生秀人=愛媛新聞)

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