無理をせず、家事を楽しむ久保さん夫妻=小松島市
家事へのこだわりをなくし、互いに任せ合う佐野さん夫妻=徳島市
 

 今日の晩ご飯は誰が作りますか。高度成長期の性別役割分業の時代は既に半世紀近くも前のこと。今や共働き世帯は専業主婦のいる世帯の1・6倍。政府は女性の労働力を活用しようと躍起なのに、料理をはじめとする家事はなぜか女性の仕事のまま。「生きるためにみんながすること」。そろそろ家事を、そう再定義しませんか。

 家事を家族でシェアするコツは何だろう。まずは夫婦ともに家事をする共働きの家庭を訪ねた。

 土曜日の朝、台所は甘い匂いに包まれていた。食卓の上の皿には何枚も積み上がったパンケーキ。娘2人のためにフライパンを持つのは久保健一さん(42)=美容師、小松島市。妻の智子さん(42)と、美容院を営んでいる。

 料理をする頻度は夫婦で半々だ。「できれば毎回作りたいぐらいですが、仕事でできないときもあるので」

 独身時代は家事に興味はなく、食事は外食で済ませたり、コンビニで調達したり。当時パティシエとして働いていた智子さんと結婚してから、料理を始めた。ともに朝は早く、夜遅くまで仕事があったが、「ご飯やみそ汁だけでもいいから家で食べよう」と2人で決めた。

 健一さんが家事をするのは、「『これをしたら(家族が)助かるかな』という気持ちから」。料理以外の家事や育児も分担する。

 今年、徳島県のイクメン・カジダン大賞を受賞した会社員の佐野崇之さん(35)=徳島市=は平日、午前6時ごろ家を出て、帰宅は午後6時から8時の間。ウェブデザイナーとして在宅で働く妻の春香さん(32)が、3人の子どもの保育園への送迎や夕食作りを担当する。

 崇之さんは毎晩、食器洗いを担当。妻の都合がつかなければ夕食も作る。休日の食事は夫婦のうち作れる方が担当する。元々料理が得意だったわけではない。食材セットとレシピがセットになった宅配サービスを利用して料理に慣れた。

 ◆心理的負担なくす
 
 両家庭とも、家事は「無理はしない」「義務にしない」がポリシー。「こうせねばならない」という厳格な基準があると、誰もができるものではなくなるし、心理的な負担が大きくなる。

 久保智子さんは「家庭料理は、それなりのものができればオーケー。みんなで作れば、それだけで楽しいですよね」。久保さんの家庭では、出汁だけは週に2、3回取って、冷蔵・冷凍で保管する。

 そうすれば「<ご飯とおみそ汁と納豆>という献立でもいいかな、と思える。出汁を取っていることがよりどころになるので」。何品も小鉢を並べるようなことはしない。代わりに、梅干しを家族みんなで作ったりと、家事を楽しむ。

 佐野崇之さんは「『一汁三菜でないと』といったこだわりはまったくありませんね」。新婚のときはそれぞれ家事へのこだわりがあったが、互いに任せ合うためにあえて目をつぶることにした。緊急用に子ども用のレトルトカレーの買い置きもしているし、洗濯物はドラム式の洗濯機で乾燥まで済ませる。

 ◆「過剰品質」の呪縛
 
 こうした「無理をしない」姿勢は重要なポイントだ。鳴門教育大の坂本有芳准教授(生活経営学)は「多くの人が家事を負担に感じる理由のひとつは、過剰品質を求めていることだ」と指摘する。

 「良妻賢母」思想は明治時代に生まれたが、家事、特に料理が高度化したのは高度成長期だ。この時期に女性は専業主婦、男性は会社勤めという性別役割分業が定着。便利な家電も登場した。それまで懐石料理のメニューであった一汁三菜が家庭の食卓に上るようになった。主婦たちは手間暇をかけ、高レベルの家事を行うことで、そのアイデンティティーを保った。

 共働き世帯が専業主婦のいる世帯を上回ったのは1997年。もう20年も前のことだ。しかし、「家事は女性の仕事」「家事をきちんとして女性は一人前」という意識だけは根強く残る。「洗い物をする夫に『ごめんね』と言ってしまう」「SNSで見る丁寧な料理を見ると、簡単な料理をする自分に罪悪感を抱く」―。プレッシャーを感じる女性からはそんな声が上がる。

 6歳未満の子どもをもつ世帯の夫の家事・育児関連時間を見ると、妻が働いていない場合は1時間15分、働いている場合は1時間24分とほぼ同じ(内閣府「仕事と生活の調和レポート2017」より)。妻の就業の有無にかかわらず、大半の夫はほとんど家事をしないのだ。「夫が家事をすると、しゅうとめに『息子にそんなことはさせないで』と止められた」と言う40、50代の女性も複数いた。

 他の先進国でも、女性の家事時間は男性より長いが、日本ほど女性が家事に時間を割いている国はない《表参照》。米国出身で子育てについての著作も多い作家スザンヌ・カマタさん=鳴門教育大准教授(英語学)=は、「米国の女性はいかに料理ができるか、家をどれだけきれいに整えるかをアイデンティティーにしていない」と言う。家事や育児のアウトソースも一般的だ。

 ◆自分の生活つくる
 
 女性が家事を一手に引き受けることは、男性が家事スキルを付けることを阻む。日本と欧米3カ国を比較した「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(内閣府、15年度)では、家庭で果たす主な役割として家事を挙げた男性は、日本で2・4%。米国24%、ドイツ23・5%、スウェーデン73・4%と比べると、異常な低さだ。

 日本では1人暮らしの男性高齢者も増えている。1980年に4・3%だった高齢者人口に占める1人暮らしの男性の割合は、2015年に13・3%に増加。彼らの暮らしを支えるため、県内でも自治体などが高齢男性のための料理教室を開く。

 坂本准教授は「みんなが、自分の手で自分の生活をつくるという意識をもつことが必要」と強調。「毎日違うものを食べなくてもいい。日常をパターン化し、シンプルに暮らしてみては」と提案する。