徳島を元気にするアイデアや人材を発掘、支援する事業プランコンテスト「とくしま創生アワード」が本年度もスタートする。22日、徳島大学常三島けやきホールで開かれたキックオフセミナーのテーマは「ぼくらは地方で幸せを見つけられるか?」。地域づくりや起業に関心のある約100人が集まった。地方の仕事や暮らしをテーマにした特集を展開する月刊誌「ソトコト」の指出(さしで)一正編集長の講演や、指出さんとマクロエコノミスト崔(さい)真淑(ますみ)さんによる対談の模様を紹介する。(地域連携推進室・湯浅翔子)

月刊誌 「ソトコト」 編集長 指出さん講演

地域発新たな経済の形 「関係」を買う時代 到来

「若い人は地域の『関わりしろ』に引かれている」と語る指出さん=徳島大

 実は今日、会場に来る前にレンタカーを借りてタナゴを釣ってきた。徳島最高ですよ。日本中の釣り人が大事にしてやまない魚が普通に生息している。僕はやはりこういうものが残っている、土地の底力がある場所だからこそ人は新しいものを生み出せるという価値観でいる。
地域の人は今、若い人たちがどうしたらその土地に根付いてくれるか、戻ってきてくれるか、新しいことをやってくれるのかを真剣に考えていると思う。2012年に島根県とソトコトが始めた「しまことアカデミー」が一番分かりやすい例なので紹介する。
これは「移住しなくてもいいので、東京で島根のことを考えてもらいたい」というメッセージを打ち出して地域づくりを学ぶ講座。5年目が終わり、途中で関西の講座も始まって、計80人が卒業した。結果として何もない、むしろ弱みばかりの地域に20人がUIターンし、9割を超える人が社会的な起業をした。若い人が求めているのは「自分も関わりたい」「自分のスキルをどう使えるかやってみたい」と思わせる、地域の「関わりしろ」。関わりしろとは、そこに自分が関わる余白があるかどうかということだ。
そして僕はこの「関係人口」を増やすことを事業の根幹に置いている。単に観光で訪れて、大河ドラマの舞台が別の地域に移ったら来なくなるような関係の浅い人口でもなく、骨をうずめる覚悟で来るような濃い人口でもない、その真ん中にある人口を多くの地域が見過ごしている。
全体監修を手掛ける「ひろしまさとやま未来博」が3月に始まった。目標は、広島県の中山間にある19市町村に、地域に関心のある若者60万人を集めること。そのシンボル事業として廃校を再生し、若い人と地元の先輩世代が交流する場づくりに取り組んでいる。事業を進める中で何よりうれしかったのがクラウドファンディングの達成だった。広島の行ったことも、聞いたこともない土地で「こんな場所をつくるなら応援したい」という全国の仲間526人が、3835万5千円を投じてくれた。
今はもう、物を買いたい時代でもないし、資格を取るためにお金を使う時代でもない。「関係」にお金を使っている。例えばこの服、僕は友人が作っているから買った。クラウドファンディングでは事業に参加する仲間との関係を求めて、廃校のげた箱に自分の名前を入れる権利が1万円で飛ぶように売れた。
もちろん高級な物が欲しいという流れもあるが、その一方で「関わりにお金を払いたい」人たちが増えているというのは見逃せない事実だ。各地のゲストハウスがあれほど人気があるのは、単に宿泊代が安いからではない。地域との関係が紡げるから泊まる。そんな時代が来ている。

 さしで・かずまさ 1969年、群馬県生まれ。上智大卒業後、アウトドア雑誌の編集部などを経て2011年4月より「ソトコト」編集長を務める。発行元の木楽舎(東京)取締役。著書に「ぼくらは地方で幸せを見つける」(ポプラ社)。

マクロエコノミスト崔さん×ソトコト指出編集長 対談

 10年先見据え価値を判断 崔さん
 指出さん 成果 急がないことが大事

若者の意識や社会の変化について意見を交わす崔さん(右)と指出さん=徳島大

崔 投資銀行ブームの中で就職した2008年にリーマン・ショックが起きた。いい産業がいつまでもいいわけではない。どんな状況の中でも生きる力をつけることが必要だと痛感した。

指出 大きな企業は筋肉質で安心できる存在かもしれないが、小さい所の方が「自分事」として事業を続けていく胆力が残っている。そういうものを大事にするのが、日本経済の次の流れになるといいなと思う。

崔 自分の理想とする金融をつくりたくてミャンマーで起業し、失敗して日本に戻った。その時、友人の経営者に「ピボット(旋回軸)を意識しろ」と怒られた。つまり、今すぐお金になる仕事をしながら新しい事業をつくって軸足を移していくということ。多くの会社でピボットを繰り返すことがもう当たり前になっている。それがなかなかできない大企業が、ベンチャーに頼る時代に入っている。

指出 スタッフから「週3日はソトコトをやって、残りの時間は自分の事業に使う。そんな働き方も許してもらえるか」という申し出があった。こういう時代の変化を怖いと感じる人もいるかもしれないが、地域での起業や社会起業を単なる賭け事ではなく、未来があると思ってやる若い人の気持ちはますます進化している。

指出 例えば岩手県遠野市では、ポスト資本主義の社会システムをつくろうとしているグループがある。彼らはこの取り組みを国内の他地域や海外に横展開している。岡山県西粟倉村ではローカルベンチャーが集まって地域経済を回し始めた。地域が疲弊して経済が生み出せないということに対し、答えを出そうとしている。

崔 ローカルビジネスは経済波及効果が小さいと思っていたが、担い手はそれを理解した上で、(生産規模を高めて効率化する)「規模の経済」が働くような広げ方を模索していると分かった。一方で、規模の経済を求めたからこそ、東京のひずみが生じたのも事実。この問題にどう向き合っているのか。

指出 東京も地方も関係なく日本全体が「地域化」しており、地域に新しい仕事が生まれたり、人口の移動があったりする。東京的なものをつくろうとしているわけではなく、「地域+地域」や「地域×地域」の経済圏をつくりたいのではないかということが分かり始めた。

崔 日本は道州制、連邦制の国ではないが、地域ごとに経済が生まれていつの間にか「地域制」になっているのかも。

指出 まさに。仲間経済が、単に仲間だけで回っているのではなくて「仲間型拡大経済」になっている。

崔 東京ではなかなか地域のような動きは起きない。経済学で生産性向上を考えると、人口や人口密度で物事を語りやすくなるが、実は「質」ではないかという向きもある。でも、質を測るのは難しい。

指出 東京近郊で眠りに帰るだけの人が多い地域より、地域に積極的に関わる人が多い地域の方がよほど「人が多い地域」ではないか。関係人口を指標化できないか。眠りに帰るだけの人は0・3人、地域に積極的に関わる人は3人とか。

崔 なるほど。東京の昼間人口と夜間人口の差に通じるものがある。

指出 05年の愛・地球博を覚えているだろうか? 実は、当時中高生として愛・地球博に携わった若い人たちが、震災後の東北でイノベーター(変革者)になっている事実を発見した。環境というテーマではないが、12年の歳月を経て「社会の役に立ちたい」という思いを形にしていることが分かりうれしかった。20年の東京オリンピック・パラリンピックでは社会の多様性や寛容性がうたわれると思うが、その成果が出るのは35年だろう。つまり時間がかかる。

崔 医療・福祉は本質的には経済規模を拡大させる力が弱い産業。でも10年先を見据えて、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などを活用した「病気にならない仕組みづくり」への投資はできる。単に経済合理性だけで、今の瞬間だけを見て判断するのではなく、10年先の価値を加算した判断をしないといけない。

指出 とくしま創生アワードも2、3年では成果が出ないかもしれないが、10年続けると社会を面白く、ビジネスとして利益を生む人を輩出する力が出てくると思う。

 さい・ますみ 1983年、三重県生まれ。神戸大卒業後の2008年、大和証券SMBC金融証券研究所(現・大和証券)にアナリストとして入社。12年に独立し、経済番組の解説者やコメンテーターを務めている。

とくしま創生アワード

徳島新聞社、徳島県、徳島県信用保証協会、徳島経済研究所、徳島大、徳島文理大、四国大でつくる実行委が主催。県内外から徳島の活性化につながる事業プランを募集し、県ゆかりの経営者らと共に実現化に向けた支援策を提供するもので、2016年度に始まった。本年度の募集概要は5月、徳島新聞紙上や公式ホームページでの発表を予定している。