乃木坂46のエースとして活躍し、昨年12月末で活動を終えた西野七瀬さんの卒業コンサートが24日、地元・大阪府の京セラドーム大阪で行われた。自分を変えようと17歳でアイドルの世界に飛び込んだ人見知りで泣き虫の少女は、ファンの後押しを受けて日本を代表する女性アイドルグループを引っ張る存在に成長し、芸能界でのさらなる飛躍に向けて1人で坂道を登るという大きな決断を下せるまでになった。全国約15万人が見守った最後の晴れ舞台ではかつての代名詞だった涙を封印し、一点の曇りもないすがすがしい笑顔をファンの心に焼け付けて、自身が信じる「もっとまぶしい未来」に向かって大きく羽ばたいた。

 乃木坂46のメジャーデビュー記念日(2月22日)を祝うバースデーライブは7年目の今年、21~24日の4日間に分けて開かれ、各日5万人、計20万人を動員した。西野さんの卒業コンサートと重なった最終日はチケット販売に50万件の応募があり、競争率10倍の狭き門に。会場に入れないファンのために全国218館で生中継のライブビューイングも行われて計約10万人が観賞し、各会場は西野さんの応援カラーである緑と白の2色のペンライトで埋め尽くされた。

 コンサート冒頭、まだ初々しいオーディション時のビデオ上映に続いて1人でステージに現れた西野さんが、込み上げる感情を抑えるように声を震わせながらアカペラで歌い始めたのは、初めてセンターに起用された始まりの曲「気づいたら片想い」。一緒にダブルセンターを務めるなどグループを引っ張ってきた白石麻衣さんと齋藤飛鳥さんが背後から登場し、西野さんとの別れを惜しむようにその肩に手を置くと、イントロと共にラストステージの幕が開いた。

 白石麻衣さんとグループ初のダブルセンターを務めた「今、話したい誰かがいる」「ロマンスのスタート」に続き、西野さんが「大阪! 声出るか!」と客席をあおって「夏のFree&Easy」でアリーナ上空を宙づりで周遊すると、ファンは一気にヒートアップ。続くMCでキャプテン桜井玲香さんから卒業コンサートに臨む心境を尋ねられた西野さんは、直前まで実感がなかったものの「本番1分前になって感情がブワーッと込み上げてきた」としながらも「今日は楽しみます」と客席に呼び掛けた。

 ここで早くも西野さん卒業の心境を尋ねられた親友の高山一実さんは、西野さんから1年以上前に卒業の考えを伝えられて何度も慰留していたことを告白した。「なーちゃん(西野さんの愛称)が昨年末でいなくなって2カ月たって、いつまでも裾を引っ張っていちゃいけないと思えるようになった。なーちゃんが羽ばたくための羽根を差せたら」と、目に涙を浮かべながらも小説家としても活躍する高山さんらしい表現でエールを送った。

 これで気持ちが落ち着いたのか、西野さんは続くソロ曲「ごめんね ずっと…」を笑顔で歌い上げると、齋藤さん、秋元真夏さんと3人での「Another Ghost」はクールな表情で堂々と歌唱。一方、西野さん卒業後の乃木坂を背負う3期生は「自分じゃない感じ」「トキトキメキメキ」で成長著しい頼もしいパフォーマンスを見せ、白石さんら〝お姉さん組〟4人は「魚たちのLOVE SONG」で地上約10メートルからつり下げられた状態での「壁歩き」を披露しながらも安定した表現力で聴衆を魅了した。

 

 昨年12月に卒業した若月佑美さんから「割り箸芸」の後継者に指名された堀未央奈さんが、山下美月さんら3期生3人と歌う「失恋お掃除人」で「七瀬さんは次の夢に向かって『走』りだしている」という小話を交えた振り切れたパフォーマンスを披露したかと思えば、アンダー曲「君は僕と会わない方がよかったのかな」でセンターを務めた3期生の久保史緒里さんが西野さんとの別れを思ってか涙を流しながら歌い上げるなど、西野さんと共に成長してきたグループの層の厚さを見せつけた。

 「命は美しい」「何もできずにそばにいる」と西野さんセンター曲が続いた後は、「設定温度」で1~3期生がセンターステージにそろい踏みして「ルックスの乃木坂」を象徴する圧巻のパフォーマンス。さらにその中央から加入したばかりの4期生が登場すると、清宮レイさんセンターで「傾斜する」、遠藤さくらさんセンターで「強がる蕾(つぼみ)」をフレッシュに歌い踊り、最後は全メンバーが総登場して「転がった鐘を鳴らせ!」で会場狭しと駆け回った。

 ユニット曲屈指の人気を誇る西野さんセンターの「他の星から」や「Rewindあの日」に続いてMCで登場したのは、3人で「ショパンの噓つき」を披露したばかりの白石さんと生田絵梨花さん、松村沙友理さん。西野さんとの思い出をテーマに、白石さんと生田さんが「『帰り道は遠回りしたくなる』の歌唱中に変顔でなーちゃんを笑わせている」、松村さんは「なーちゃんが歯を見せて目を細めて笑う〝人参顔〟の写真を一緒に撮れた時はうれしかった」と振り返った。

 西野さんら1994年生まれの「94年組」8人の楽曲だった「遠回りの愛情」では、中田花奈さんと、助っ人として参加した西野さんと大の仲良しの斉藤優里さんが、叙情的な曲の世界観に近づく別れを実感して大粒の涙を流した。続くMCでは94年組最後の3人となる桜井さんと中田さん、井上小百合さんが、一緒に同じ高校に通うなど絆が深かったメンバーの思い出を語り合い、また1人が欠ける寂しさをにじませながらも「なーちゃんを笑顔で送り出せるように盛り上げよう」と話し合った。

 乃木坂の顔としてさまざまな場面で比較されることが多かった西野さんと白石さんの距離感が徐々に縮まってきた歴史を示すビデオ上映に続いて披露されたのは、2人の唯一のデュオ曲「心のモノローグ」。これまでの関係性を思い出したせいか2人とも目を潤ませながらも、最後までクールにパフォーマンスを終えて他のメンバーと合流し、2人でダブルセンターを務めて2017年にグループとして初のレコード大賞を勝ち取った「インフルエンサー」で会場を盛り上げた。

 ここまで一貫して楽しそうな笑顔を見せ、「無口なライオン」では号泣する斉藤さんをあやす余裕も見せた西野さん。自身が考案したキャラクター「どいやさん」からのリクエストという形で白石さんらと参加するグループ初期の人気ユニット曲「せっかちなかたつむり」を披露したのに続き、どいやさん形の巨大な気球に乗った西野さんが客席上空を浮遊する中で、メンバーがスカイダイビングの動きを取り入れた爽快な楽曲「スカイダイビング」を歌い踊った。

 ここまで披露された42曲中、約30曲に出演した西野さんが「そんなこんなで次が最後の曲です。卒コンだけあってめっちゃ出てる実感がありました。すごい楽しかったです」と告げ、齋藤さんとダブルセンターを務めた「いつかできるから今日できる」に突入。汗だくになった西野さんは「地元の京セラドームで初めてコンサートができてすごく楽しかったです。なんか終わっちゃうのは寂しいですね。本当にありがとうございました」とあいさつし、本編を締めくくった。

 アンコールを求めるファンの間から自然発生的に起きたのは、普段のライブで聞かれる「乃木坂」「46」コールではなく「七瀬」コール。程なくして1人でゆっくりと歩きながら登場した西野さんは、純白で胸元に白い羽根があしらわれたノースリーブのロングドレスに、白い羽根飾りが付いたヘアバンドを着用。「七瀬コールがステージ裏にまで聞こえてきて、みんなと盛り上がっていました。ありがとうございます」と静かに切り出して感謝を述べた。

 その上で「ライブが始まる直前に喉がキューって絞められて、その時に自分にとっての乃木坂っていう存在がすごく離したくないもの、例えようのない大事なものになっていというのを気付かされました」と卒業の心境を吐露。「アカペラで歌う練習もすごいしたのに、本番では練習の時にはない感情がたくさん生まれてきて、練習通りにはできなかった。でも、そういう姿を皆さんにお見せできるのも悪いことではないと思っています」とした。

 ライブパフォーマンスに定評があった西野さんらしく「今日参加して、やっぱりライブは楽しいなって思いました。リハとか大変なこともたくさんあるんですけど、数え切れない人たちのおかげで私たちはライブができるということを改めて感じました」と関係者への感謝を述べ、「自分が楽しい気持ちで歌ったり踊ったりする上で、視線を向けて手を振ってくれる皆さんの存在がすごく力になりました」と自身をここまで押し上げてくれたファンへの尽きない感謝を口にした。

 西野さんにとってライブは「唯一、しゃかりきに『みんな私を見て』という気持ちでできる場所で、自分の中でルールが一つずつ生まれていった」と、自分がアイドルとして輝ける場所だったことを説明。その上で「ファンの方に喜んでいただきたいというのが原点で、そういう風に思わせてくれたことがすごくありがたい」としつつ「『乃木坂46の西野七瀬』になれたことは、私自身を含めて誰も予想しなかったことで、本当に幸せです」と7年半の自身の歩みを総括した。

 今後の活動については「たくさんの方が力を貸してくれて私たちが活動できている。アイドル以外の仕事でもそういうことは生きるはずで、乃木坂の7年間で覚えた教訓はこの先どこに行っても役に立つと思う」とグループでの経験を生かして芸能界でさらに飛躍する決を述べた上で「『乃木坂46の西野七瀬』じゃなくなりますけど、西野七瀬はずっと生きていきますので、私のことを見ていてくれたらうれしいです」と変わらぬ応援を呼び掛けた。

 自身最後のソロ曲「つづく」では、感極まったためか歌い出しから歌詞を間違えたものの、「間違えちゃった」と笑顔で謝罪しつつ歌唱を続行。涙があふれそうになりながらも「あふれそうな涙に歯を食いしばる」という歌詞に合わせるようにグッとこらえて涙は流さなかった。続いて登場したメンバーと「シンクロニシティ」を披露すると、自ら「盛り上がりましょう」と客席に気合を入れ、感謝をテーマにしたライブの定番曲「ダンケシェーン」に突入。最後は生田さんに求められる形で「やっぱ乃木坂だな」の決めぜりふを初めて発した。

 桜井さんからこの日の感想を聞かれた西野さんは「めちゃくちゃ楽しかった」と充実した表情を見せ「実は(大好きな)ハトを意識した」というドレスが少し重いため普段通り踊れないかもしれないと謝罪しながら、最後のセンター曲「帰り道は遠回りしたくなる」を披露した。4、3、2、1期生の順で一人一人が西野さんとハイタッチや握手をしながら最後のお別れ。号泣する高山さんや秋元真夏さんらと言葉を交わすうちに、これまでこらえていた涙が初めて頰を伝った。

 1期生最後に順番が回ってきた白石さんが、西野さんを受け止めるように少し手前で両手を広げると、西野さんの方から歩み寄ってしっかりと抱擁した。共に乃木坂の「エース」「女王」などと称されながら、トップに立ち続けてきた者にしか分からない喜びも苦悩もすぐ近くで共有してきた2人。グループを巣立つ者と残って守る者、立場は変わるものの、互いにエールを交わすかのように約30秒間抱き合いながら小声で言葉を交わして別れを惜しんだ。

 西野さんが立ち去った後も鳴りやまない七瀬コールが響き渡る中、ダブルアンコールで西野さんが登場するとファンは喜びを爆発させた。メンバーとの別れで一瞬だけ見せた涙も既に乾き、前向きな旅立ちにふさわしい明るいソロ曲「光合成希望」をメンバーと一緒に披露。号泣するメンバーが多い中、センターで笑顔で歌う西野さんの姿は、メンバーにどれだけ愛された偉大な存在だったか、7年半でどれだけ成長したかを印象付ける象徴的なシーンだった。

 西野さんは「どうやって(コンサートのラストを)締めればいいか分からない。どうしよっか」と戸惑いながらも、メンバーの発案でマイクを使わない生の声で最後の感謝を伝えることに。自身が音頭をとってメンバー全員で「本日は本当にありがとうございました」と大声で叫んだ。その後は明るく「イエーイ」などと笑顔を振りまくと「気をつけて帰ってくださいね。バイバーイ」と手を振りながらステージ裏へと消えて行った。

 ここで本当に終了かと思われたが、それでも別れを惜しんで席を立てないファンが大勢いる中、「トリプルアンコール」でステージに登場した西野さん。松村さんがMCで話していた「人参顔」に会場のファンと一緒に挑戦し「本当にありがとうございました。またね。バイバイ」と再会を約束。握手会での「神対応」で人気を集めた西野さんらしく、最後までファン思いの手厚い対応ぶりを見せた。最後に「ありがとうございました」と深々と一礼し、この日最高の笑顔で会場を後にすると、乃木坂46の歴史に新たな伝説を刻む舞台は幕を閉じた。

◆乃木坂46「7th YEAR BIRTHDAY LIVE」DAY4 西野七瀬 卒業コンサート セットリスト
M0:Overture
M1:気づいたら片想い
M2:今、話したい誰かがいる
M3:ロマンスのスタート
M4:夏のFree&Easy
M5:ごめんね ずっと・・・
M6:自分じゃない感じ
M7:トキトキメキメキ
M8:春のメロディー
M9:Another Ghost
M10:魚たちのLOVE SONG
M11:失恋お掃除人
M12:君は僕と会わない方がよかったのかな
M13:命は美しい
M14:何もできずにそばにいる
M15:羽根の記憶
M16:設定温度
M17:傾斜する
M18:強がる蕾
M19:転がった鐘を鳴らせ!
M20:他の星から
M21:ショパンの嘘つき
M22:Rewindあの日
M23:生まれたままで
M24:吐息のメソッド
M25:僕がいる場所
M26:ひとりよがり
M27:隙間
M28:遠回りの愛情
M29:きっかけ
M30:心のモノローグ
M31:インフルエンサー
M32:別れ際もっと好きになる
M33:嫉妬の権利
M34:かき氷の片想い
M35:無口なライオン
M36:やさしさなら間に合ってる
M37:やさしさとは
M38:My rule
M39:せっかちなかたつむり
M40:スカイダイビング
M41:会いたかったかもしれない
M42:いつかできるから今日できる
本編終了
EN1:つづく
EN2:シンクロニシティ
EN3:ダンケシェーン
EN4:帰り道は遠回りしたくなる
WEN:光合成希望