道徳を正式な教科に格上げするため、文部科学省が小中学校の学習指導要領改定案を公表した。

 教材を読むだけの「読み物道徳」から「考え、議論する道徳」への転換を打ち出したのが特徴だ。

 文科省はパブリックコメント(意見公募)の後、来月末に新指導要領を告示し、小学校で2018年度から、中学校では19年度から、「特別の教科」として授業を始める方針である。

 子どもたちにルールやマナーを教え、道徳心を育ませるのは大事なことだ。しかし、教科化にはさまざまな問題が指摘されており、実施に向けた課題は多い。

 子どもや教育現場の実態を踏まえた対応が求められる。

 改定案は、現行指導要領から学習内容を大きく変えず、「親切、思いやり」「友情、信頼」「勤労、公共の精神」「生命の尊さ」など22項目のキーワードを示した。授業時数は年35時間(週1時間)で現在と同じにする。

 目を引くのは「特定の見方や考え方に偏った指導を行わない」と明記し、多角的に考えることを重視した上で、討論など言語活動の充実を掲げた点だ。

 人の生き方や考え方はそれぞれ違い、何が良いか悪いかの答えは一つではない場合が多い。同じ事象でも捉え方で是非の判断は分かれよう。

 教師が一方的に善悪を教えるのではなく、子どもたちが意見を出し合う中で、理解を深めていくことが大切だ。多角的に考える力を養うとした方向性は評価できる。

 ただ、授業の仕方が分からないという教師も少なくない。文科省が12年に行った調査では、適切な教材の入手や指導方法に課題を感じている小中学校は約3割に上った。

 まず求められるのは教師の力量を高めることである。大学の教員養成課程で道徳の時間を増やすことや、教師の研修体制の充実、学校でのリーダー養成などが必要だ。

 そのためには、多忙な教育現場にゆとりを持たせることが欠かせない。子どもに向き合う時間を大切にしたい。

 新たに導入する評価の方法も課題だ。

 教師の望みそうな答えや行いを察して発言、行動する子どもが出ることが予想されるが、それを見抜くのは容易ではない。

 改定案では、数値ではなく、子どもの成長の様子を文章で記述するとしている。

 だが、思いやりや公共の精神といった心の在り方をどう評価するかは、難しい問題である。

 文科省は専門家会議を設置して、新年度中に評価方法などを示すという。

 画一的な価値観を押し付けることにならないよう、柔軟で多様な評価ができる仕組みにしなければならない。

 教科化の議論のきっかけになったのは、11年に大津市で起きた中学2年男子のいじめ自殺だった。

 このため、改定案は学習内容に「誰に対しても分け隔てをせず、公正、公平な態度で接する」などを加えた。

 それらが大切なのは言うまでもないが、教師が教え込めばいじめがなくなるわけではあるまい。

 学校生活全般を通じた取り組みが必要なのはもちろん、家庭や地域の役割が重要であることも忘れてはならない。