中東の過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件と同様の事態が起きた場合、邦人を保護できるだろうか。極めて難しい問題である。
 
 政府の人質事件検証を見る限り、適切な対応策が導き出せるか、疑問が拭えない。
 
 今後のテロ事件対処や、海外での邦人保護に教訓として生かすため、徹底的な検証が不可欠だ。菅義偉官房長官も指摘するように、議論の実を挙げなければならない。
 
 ところが、検証委員会は官房副長官をトップに、首相官邸や省庁幹部がメンバーで、第三者の外部有識者や国会議員は含まれていない。
 
 政府は中東問題や危機管理の専門家らの意見も聞いた上で、4月ごろに報告書をまとめる。ただ、特定秘密保護法の制約で、専門家に明らかにできない情報は少なくないという。
 
 「内輪の論理」を優先した議論では、検証に限界がある。野党から「はじめから結論ありきの検証なら意味がない」と批判されるのも仕方あるまい。
 
 検証結果は多角的な視点でもむ必要がある。秘密漏えい防止の縛りをかけた上で、有識者や国会議員に積極的に情報を開示し、知恵を結集しなければならない。
 
 検証するのは、湯川遥(はる)菜(な)さんがシリアで行方不明になった昨年8月以降の政府対応である。
 
 政府は直後にヨルダンに現地対策本部を置き、情報収集に努めたというが、収集の成否や救出に向けた具体的な動きは明らかにしていない。
 
 10月には後藤健二さんが行方不明になり、12月に妻が脅迫メールを開封した。政府は2人が拘束された可能性を認識したが、今年1月20日に「イスラム国」による殺害警告映像が公開されるまで、現地対策本部を増員しなかった。
 
 政府の初動対応や情報収集に瑕(か)疵(し)がなかったか。部族長や宗教指導者と接触したが、結局、犯行グループに連絡が取れず、翻(ほん)弄(ろう)された。
 
 安倍晋三首相が中東歴訪に踏み切った判断や、1月17日に「イスラム国と闘う周辺各国に2億ドル支援する」と表明した演説は適切だったか。問われる点だ。
 
 演説は、外務省と首相サイドで擦り合わせて作成したという。もちろん、テロに屈するわけにはいかない。
 
 だが、演説の表現が相手を刺激し、最悪の結果を招いたとの指摘もある。拘束された2人への配慮をおろそかにしていなかったか。
 
 2人の自己責任を問う声はあるが、政府には邦人保護の責任がある。
 
 委員会は、首相への聞き取り調査は想定していないというが、説明を求め、詳しい経緯を精査すべきだ。
 
 イスラム国は、日本もテロの標的にするとした。周辺国への人道支援を口実にしているのは論外だが、脅威が増したのは確かだろう。
 
 首相は自衛隊による邦人救出のための法整備をする考えを示した。しかし、米国の特殊部隊でさえ、人質救出に失敗している。法整備で救出できるかのような議論には首をかしげる。
 
 在留邦人の安全確保には、過激派や紛争地の情報収集・分析力、国際社会との連携強化が何より大切である。
 
 国会では、秘密保護法の運用、「積極的平和主義」の是非も含め、議論を深めたい。