輸出が禁止されている和牛の受精卵と精液が中国に持ち出された事件で、大阪府警は吉野川市の畜産農家を流出元と特定し家宅捜索した。

 和牛は海外で人気が高く、日本にとっては主要な輸出農産物である。2018年の輸出額は前年を3割上回る247億円に達した。

 受精卵や精液が利用されて海外で生産されれば、日本の畜産業が打撃を受ける恐れがある。多くの畜産農家は不安を募らせているだろう。

 大阪の男性が昨年7月、受精卵と精液をストロー状の容器に入れ、専用の輸送容器で中国・上海へ持ち込もうとした。発見した中国の税関が持ち込みを認めず、男性が日本に持ち帰った際、動物検疫所に自主申告して発覚した。

 悪意があれば簡単に持ち出せるとの指摘もある。農林水産省は男性を告発し、船舶や航空会社などに注意を促している。再発防止にはより実効性の高い対策が必要だ。

 家畜伝染病予防法違反の疑いで家宅捜索を受けた大阪の男性は、府警に対し、知人に頼まれて持ち出したと説明した。畜産農家の男性は、受精卵と精液は面識のない人に数百万円で販売したというが、大阪の男性とは別の人物とみられている。府警は全容解明を急いでもらいたい。

 畜産農家の男性は、徳島新聞の取材に「和牛なら何でもいいと言われたので、通常の仕事として販売した。買った人がどうするかまでは知らない」と答えている。

 牛の受精卵や精液を譲渡する際は、家畜改良増殖法に基づき、採取日や種牛などを記載した証明書を交付しなければならない。農家の男性は交付しなかったといい、同法違反の疑いが持たれている。

 受精卵や精液の採取・譲渡は原則、都道府県の許可を受けた家畜人工授精所などでしか行えない。県内で許可を受けているのは、男性の農場を含む2施設だけである。男性の農場では、高級和牛となる品質の高い受精卵を販売していたとみられている。

 そもそも家畜伝染病予防法は、伝染性疾患の発生や流行を防ぐためにできた法律であり、家畜の輸出規制が主目的ではない。家畜改良増殖法も品種改良によって畜産振興を図るのが狙いで、販売先は制限していない。

 つまり、受精卵や精液など国内で品種改良された畜産物の遺伝資源を保護し、国外流出を規制する法律がなく、生産者団体の自主規制に頼っているのが現状だ。心もとないと言わざるを得ない。

 事件を受けて農水省は、遺伝資源の適切な流通管理手法を議論する検討会を発足させた。徳島県は、畜産農家から聞き取りを進める一方、「ブランドを守るためには、流通業者の登録制度など流出を防ぐためのチェック体制が必要」と訴える。

 流通管理を徹底するにはどのように体制強化を図っていくべきか、法整備を急いでほしい。