日本からの資金援助が、開発途上国の軍事行動に利用される恐れはないのか。政府開発援助(ODA)の新たな在り方を定めた「開発協力大綱」からは、そんな疑念が拭えない。

 これまで、わが国は軍と関係しない民生分野に限った途上国支援を続けてきた。

 だが、約11年ぶりの見直しで閣議決定された新大綱は、安倍政権の「積極的平和主義」を反映し、他国軍への支援を対象外としてきた原則を変更して非軍事目的に限り容認している。

 国会での論議が不十分なままで、ODA政策を大転換することは認め難い。政府は拙速を慎み、軍事転用に歯止めをかけるよう、再検討すべきである。

 1992年に策定されたODA大綱は、2003年の改定後も「軍事的用途および国際紛争助長への使用を回避する」と明記し、軍の関与がある支援は全て排除してきた。

 新大綱では「軍や、軍籍を有する者が関係する場合、実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」として、災害救助などの非軍事分野であれば、軍が関与していても援助できるようにした。

 「実質的意義」の意味はあいまいで、非軍事目的に限るという援助の原則が空洞化する懸念
は残る。

 近年、途上国で、軍が災害復旧などに果たす役割が大きくなっているのは確かだ。だが、災害用など非軍事目的に指定した車両でも、ひとたび紛争が起きれば軍事転用される可能性は十分ある。

 日本は軍事転用を防ぐ有効な手だてを講じるべきである。ただ、他国軍が支援物資や資金をどのように運用するか、把握するのは容易ではあるまい。

 新大綱の背後に見えるのは、軍備増強を続ける中国への警戒感である。

 国際社会で存在感を強める中国に対抗し、東南アジアなどで日本の友好国を増やすために、ODAを使いやすくして有効活用したいとの思惑も読み取れる。

 新大綱が初めてうたった「国益の確保」という観点からの援助も増えそうだ。

 ODAは原則として国民1人当たりの所得が一定水準以下の国に実施しているが、特別な事情で支援が必要になるケースがある。これらの国々に、開発ニーズの実態などに応じて必要な支援を行っていく方針も打ち出した。

 原油調達先のペルシャ湾岸諸国も念頭にあるようだ。

 他国軍へのODA支援は、日本人へのテロ行為を誘発するリスクをはらんでいる。過激派「イスラム国」による邦人人質事件では、日本の非軍事支援がテロリストに思わぬ口実を与えた。

 安倍政権は、武器輸出三原則撤廃、集団的自衛権の行使容認、そして、今回の新大綱と、矢継ぎ早に安全保障政策を転換している。その姿勢には、危うさを感じる。

 日本が戦後70年間にわたって築いてきた平和国家としての国際的信用を揺るがしかねない。

 新大綱について、国会で論議を積み重ね、国民の前に問題点を明らかにすべきだ。

 その上で、「平和主義」の原則に立ち返り、新大綱に必要な修正を加えてほしい。

 国会は、政府、政策に対するチェック機能をきちんと果たさなければならない。