徳島市中心部で9日にスタートする「とくしまLEDデジタルアートフェスティバル」。昨年度に続き、シンボルアートを制作したチームラボ(東京)の猪子寿之代表=徳島市出身=に話を聞いた。(聞き手=湯浅翔子)

作品「チームラボ クリスタル花火」の前に立つ猪子寿之代表=徳島県庁(村山嘉昭撮影)

光と自然の一体感 体験を

―見どころを教えてください。

徳島市は川が多くて近いんですよね。あと街の真ん中に原生林がある。前回初めて制作の依頼をいただいたとき、この二つが他の街にない特長だと思ったので川そのもの、森そのものを使って街の良さを増幅させるようなイベントにしたいと思いました。今回もそれを大枠では引き継いでいます。今回からは徳島市と徳島県が共同開催されるということだったので、県庁エリアにも二つの作品を設置しました。万代倉庫の「秩序がなくともピースは成り立つ―阿波おどり」は、徳島市中心部で生まれ、阿波踊りの中で育った自分が阿波踊りを通して感じたことや考えたことをチームで作品にしました。ホログラムによって映し出された人々が楽器を奏でたり、踊ったりする非常に透明感のある空間の中を歩き回っていただけます。2013年にシンガポール・ビエンナーレのメーン作品として発表して以来、世界で初めての展示となります。

―まさに作品の「里帰り」ですね。昨年12月には渦潮をモチーフにした作品も発表され、オーストラリアのビクトリア国立美術館に永久収蔵されることになりました。

祖父は鳴門で揚がる魚介を好む人でした。小さい頃は「潮の流れが激しいから(魚が)鍛えられるんだろう」という程度に考えていたけど、興味があっていろいろ調べていくと、実際は世界中の海で巨大な渦が巻いているんですね。海流が海底の地形や島々とぶつかって流速差が生まれ、渦になる。その渦が生き物の死骸を巻き上げるから栄養価の高い、豊かな海になって魚を肥やすんです。人間社会も同じだな、と。多様な人々の、一見自分とは関係のないような活動が絡み合って、複雑な渦を生んで、知らず知らずのうちに大きな影響を受けている。作品は鑑賞者の動きに合わせて潮流が生まれ、渦が巻く仕掛けですが、初めは皆すごく複雑な動きをするのに、いざ渦が巻き始めるとそれに沿うように歩き始めるんです。作品のタイトル(「Moving Creates Vortices and Vortices Create Movement」)通り、多様な動きが渦を生んで、今度はその渦がもっと大きなムーブメントを生んでいくんですね。

Moving Creates Vortices and Vortices Create Movement(© teamLab, courtesy Ikkan Art Gallery, Martin Browne Contemporary and Pace Gallery)

―徳島で幼少期を過ごしたことが、創作活動に少なくない影響を与えているようですね。

実際にあると思います。例えば僕は内町小学校に通っていたので、城山は街と自然が交差するとても魅力的な遊び場でした。子ども時代に田舎の立体的な空間で遊ぶと、身体も思考もより高い次元で物事を感じたり、考えたりできるようになる気がします。例えば企業の組織図、あれはいかにも2次元の発想で、3次元や4次元の視点で物事を立体的に捉える人からしたら、ものすごくまか不思議な図ですよ(笑) 東京のような都市はどうしても平面的になりがちです。

―国内よりもむしろ海外で、活躍の場が広がっていますね。

世界の中でも一部の先進的な、国際競争力のある都市はアートを極めて重要視しています。それはやはり人々の価値観、基準を変えるものを求めているからだと思います。世界史を見ても、名前が残るのはサイエンティスト(科学者)とアーティスト(芸術家)、社会構造を変えた革命家だけ。そして「誰が」新しい創造を切り開いたかを重視し、敬意を払います。日本では、新たな概念を生み出している者とそれを模倣している者との区別をつけないところがありますよね。海外に出ると新たな創造とコピーとの間には圧倒的な、天と地ほどの差があって、同じ場に入ってくることがないんです。

インタビューに答える猪子寿之代表(村山嘉昭撮影)

―今夏ついに、東京・お台場に常設の美術館がオープンしますね。五輪を見据え、東京の新たな観光拠点として期待がかかります。

シンガポールに3カ所ある常設展示には年間50~60万人がコンスタントに入場してくれています。今回森ビルと共同で制作するのは、もっとコンセプチュアル(概念的)な空間。2016年に森美術館で展示したカラスが飛ぶ作品(「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく - Light in Space」)がありますが、新作ではカラスが展示室を飛び越えて他の作品の中に入っていくこともあります。見たければ作品を追いかけないといけない(笑) 鑑賞者が当事者になれる「ボーダーレス」な空間を目指して制作を進めています。ちなみにチームラボには現在、500人ほどの社員がいますが、全員がアートに携わっているわけではありません。7割はシステム開発などの仕事をしています。

teamLab Borderless

―なぜいま、チームラボの作品が求められているのでしょうか。

求められているかどうかは分からないけど…意識しているのは自然と人間の関係性みたいなものを考え直すきっかけをつくることです。昔は里山のように、自然と人間は境界のない状態にありましたが、近代以降だんだんと分断が進んでしまいました。我々はもちろん自然の一部で、自然がなければ生存できない存在。だからその境界のなさを体験したり、考えたりしていくような場をつくったらいいなと思ってやっています。もう一つはその延長線上にあって、「自分が世界の一部である」と感じられるような体験を作り出すことです。近代の街に住んでいると、私と世界との間には境界があり、個として独立、生存できているという勘違いを起こしてしまいます。当たり前だけど私たちは人間関係の一切ない他者、世界とも連続していて、その連続性はインターネットの出現によって一層強くなっている。にもかかわらずそういうものを拒絶したり、壁を作ろうとしたりするでしょう? 私たちは他者への寛容性とか創造力をもう少し持った方がいいし、「自分は大きな世界の一部である」という感覚を、頭ではなく身体感覚として持てるような、そういう体験を作りたいと思っています。アート的な体験によって、人々の価値観を身体的に変えられると信じているので。

―身体感覚をデジタルの力で取り戻すという発想がユニークです。

デジタルだからこそ作れる体験が、人類の価値観をバージョンアップできたらいいなと思います。現代は誰がなんと言おうとデジタル社会になってしまっていて、インターネットや携帯がなければもはや生活が成り立たない。今後もますますそうなっていくと思うけど、そんな時代に合った、バージョンアップの仕方を提示したいな、と。できれば「21世紀前半、誰が人類の価値観に最も影響を与えたか」と聞かれたときに「チームラボ」と言われるぐらい、大きく変えていけたらいいですね。20世紀前半がピカソ、後半がウォーホルだったみたいに。徳島新聞でも「IT会社チームラボ」ではなく、「アート集団チームラボ」と書いていただけるようにね(笑)

インタビューに答える猪子寿之代表(村山嘉昭撮影)

猪子 寿之(いのこ・としゆき) 1977年、徳島市生まれ。城東高卒。2001年、東京大学工学部を卒業と同時にチームラボを創業。11年から国内外でデジタルアート作品を発表。ロンドン、パリ、ニューヨーク、北京など世界の主要都市で個展を開き、高い評価を受ける。

とくしまLED・デジタルアートフェスティバル

2018年2月9日(金)~18日(日)

徳島市中心部

公式サイト http://tok-led-artfest.net/

徳島新聞動画

【関連記事】チームラボが常設ミュージアム お台場に今夏開業