米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐり、政府と沖縄県の争いが全面対決の様相になってきた。
翁長雄志知事が、辺野古沿岸部での海底ボーリング調査を停止するよう指示したのに対し、政府は無視して作業を続けている。
双方は法廷闘争も辞さない構えだ。このままでは対立が決定的になり、修復できなくなる恐れがある。
ここまで事態が悪化した原因は、沖縄の声を聞かず、強引な手法をとってきた政府の側にあろう。政府は作業を中止し、県との話し合いを始めるべきだ。
翁長知事は、指示から7日以内に作業を停止しなければ、海底の岩石採掘などの岩礁破砕に関する許可を取り消すと警告している。作業停止の期限は今月30日である。
知事が停止を指示したのは、防衛省がボーリング調査のため投入した大型コンクリート製ブロックが、岩礁破砕の許可区域外でサンゴ礁を傷つけている可能性が高く、作業を止めて県が調査する必要があると判断したためだ。
県は、岩礁破砕許可が取り消されれば、防衛省はボーリング調査を続行できなくなると主張している。
これに対して防衛省は、県の破砕許可は不要と反論。対抗措置として、行政不服審査法に基づき、指示の執行停止を求める申立書などを林芳正農相に提出した。
菅義偉官房長官は「翁長氏の指示は違法性が重大かつ明白で無効だ」と批判する。
だが、県の潜水調査では、1カ所でサンゴ礁の損傷が確認されている。他の地点も確かめ、問題があれば是正させたいというのは県として当然ではないか。
防衛省は昨年8月にボーリング調査を始め、翌9月に中断した後、今月再開した。
翁長知事は、前知事による埋め立て承認の是非を検証する有識者委員会を1月に設置し、検証が終わるまで調査を再開しないよう求めていた。
それを一顧だにせず、抗議する人たちを力で排除しての強行だった。乱暴なやり方に「これが民主主義なのか」と県民から怒りの声が上がったのはもっともだろう。
菅官房長官は「わが国は法治国家だ」「法令に基づき、粛々と工事を進める」としている。
しかし、前知事が公約に背いて踏み切った辺野古の埋め立て承認は、昨年11月の知事選で大敗を喫したことで県民からノーを突き付けられた。
昨年の名護市長選と衆院選でも、移設賛成派は完敗した。沖縄の民意は明確に示されている。それを無視して進めることが正当な方法といえるだろうか。
翁長知事は就任後、安倍晋三首相と菅官房長官に一度も会えていない。
安倍首相はきのうの参院予算委員会で「国と地元がさまざまな取り組みについて連携を深めていく中で、翁長氏との対話の機会も設けられると考えている」と述べた。
首相は中韓両国首脳との会談開催をめぐり、前提条件を付けるべきではないとし、対話のドアは常にオープンだと強調している。
その姿勢を沖縄に対しても貫いてもらいたい。地元の理解と協力を得ようとするなら、まずは県民の声に耳を傾けるべきである。