安倍晋三首相はなぜ、そんなに憲法改正を急ぐのか。
 
 首相は衆院予算委員会で、憲法改正をめぐり、改憲手続きを確定させる改正国民投票法の施行などを挙げて、「いよいよ(改憲の)条件が整ってきた。より幅広く議論が進み、どういう条項で国民投票にかけるか、発議するかに至る最後の過程にある」との認識を表明した。
 
 そうだろうか。生活に追われる中、憲法改正が喫緊の課題だと考える国民がどれだけいるのか疑問だ。
 
 最高法規である憲法には国のかたちを定め、国家権力の専横から国民の権利を守る大切な役割がある。これまで憲法が一度も改正されなかったのは、改正要件が厳しい硬性憲法であるだけでなく、先の大戦の反省に立ち、政府と国民が平和憲法を重んじてきたからである。
 
 だが、自民党は来夏の参院選までに与野党で改憲原案をまとめ、秋の臨時国会で発議する日程を最速のシナリオとして描いてきた。最近では、2017年の通常国会発議を念頭に置いているようだ。
 
 自民党が党是の憲法改正を目指すのは何ら不思議ではないが、拙速は慎むべきだ。
 
 改憲の発議には、衆参両院でそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成が必要だ。与党は衆院では数の要件を満たしているが、参院では足りない。
 
 さらに、与党の自民、公明両党の温度差も大きい。自民党が12年に決定した憲法改正草案では、天皇を「日本国の元首」とし、戦力不保持と交戦権を否定した9条を改正して、「国防軍」を保持すると記している。
 
 一方、公明党は9条の堅持を掲げており、自衛隊の存在の明記などを「加憲」の対象として検討する立場だ。
 
 そこで自民党は、大規模災害、武力攻撃に対応する「緊急事態条項」や「環境権」の新設が合意を得やすいとみて各党と調整を進める構えだ。
 
 首相は、改憲原案の取りまとめについて「大いに議論した上で、1回目の改憲の内容は丁寧に絞り込むべきだ」との考えで、複数回に分けて改正に取り組むようだ。
 
 取り付きやすい条項で国民の抵抗を減らし、9条改正に持ち込む戦略だろう。そうした手法は、憲法に対する敬意を欠く証左ではないのか。
 
 公明党は、環境権などの新たな理念を加憲の対象としてきたが、党内には環境権の明記に異論も出てきた。
 
 環境権の創設を説得の材料にして、公明党の協力を得ようとする自民党の戦略に影響を与えそうだ。
 
 そもそも、緊急事態条項や環境権は、法律改正で対応できないものか。この点を議論するだけでも、相当な時間が必要なはずだ。
 
 自民党は衆院憲法審査会で改憲項目の絞り込みを目指すが、民主党は「慌てる必要はない」と難色を示している。

 「初めに改憲ありき」ではなく、改正の必要性も含め、慎重に論議を深めたい。