日本サッカー協会(JFA)が各都道府県で順次開いている「JFAサッカーファミリータウンミーティング」が11月5日、徳島市の徳島グランヴォリオホテルで開かれた。県内のサッカー指導者ら75人が参加。協会の田嶋幸三会長が取り組みを紹介した後、参加者からの質問に答えた。

田嶋会長は選手育成に関し、「将来の日本代表を育てるために(小さい頃から)高い意識を持って指導してほしい」などと呼び掛けた。

質疑応答では、参加者から「グラウンドを芝生にしてほしい」「中高生を育成する指導者を増やして」との要望が上がった。田嶋会長は「芝の苗を無償提供しているので活用してほしい」「外部コーチの活用を進めている」などと答えた。

ミーティング終了後、田嶋会長に話を聞いた。

-徳島でのタウンミーティングを終えて

各都道府県協会中で、「グラスルーツ(だれもが、いつでも、どこでも、サッカーを楽しめるようにするための活動)」の発展と、育成の重要性をしっかりと把握していただいた上で実行してもらうことが大切なので、(徳島は)それを意識してくださっているということを強く感じた。質疑で、指導者の育成、子どもの育成、障害者のこととか、多岐にわたる質問が出たということは、非常にバランスの取れた協会だと改めて感じた。

少子高齢化進む中、徳島は4種(12歳以下)の人口がそれほど変わっていない。これは協会が努力してくださっているからだ。地理的に関西圏に近く、ヴォルティスがあり、頑張っている高校もある。また女子も、道上(彩花=INAC神戸レオネッサ)、市瀬(菜々=マイナビベガルタ仙台)ら年代別のなでしこの候補に入っている選手を輩出しているし、Jリーグにもインパクトの選手が出ている。本当に素晴らしい選手を育ててくれていると思った。

-地方では人口減が進み、育成・指導面で都会との格差を指摘する声がある

じゃあ都会がすごいかっていうと、日本サッカー協会のお膝元である東京・文京区では、13ある中学校のうちサッカー部があるのはたった3校。それを埋めるクラブが十分整っているかというと、東京こそグラウンドの確保が難しくてクラブが育ちにくい環境がある。確かに電車に1時間も乗ればかなりの所へ行けるので、そういう違いはあるかもしれない。でも、徳島で、例えば三好市だったら香川や愛媛の人たちと試合することもあるだろう。そのように柔軟にやっていくことで解決できるものがあるのではないかと改めて思った。

-中学・高校で県外に選手が出ていくことについて

選手の流出は他県でも起こっている。一方で都会から地方へという逆のケースもいっぱいある。選手の意思で行くのだから、これを止めるわけにはいかない。それを止めることができるとすれば、もっといい環境を徳島につくることしかない。それはヴォルティスなのか、高体連なのかは分からないが、県外に行かなくても自分たちはうまくなれるという環境をつくる。海外には、田舎にあるけど育成に長けているというクラブはある。そういう県があってもいいと思う。

-地方の協会と地元Jリーグクラブの関係について

両輪だと思っている。一番いい選手はJリーグのアカデミーに行くことがたぶん多い。国体とかで県協会とJのクラブがしっかり連携を保つことが大事だと思う。例えば徳島スポーツビレッジ(TSV)は、徳島県協会が日本サッカー協会の分配金で作ったのを今、ヴォルティスが指定管理のような形でやってくださっている。そういうところでは非常にうまくいっていると思う。

-指導者について

指導者の意識は大事。僕たちが20年前に全国を回ったとき、学びたい、学んだことをどう生かすかといった旺盛な意欲があった。ところが今はビデオだ、本だ、と、どんどん出てくる。与えられているもので満足するのではなく、もっと上がある、自分でどう研さんするかっていうことが、子どもたちの育成に通じるんだっていう意識が、もしかするとちょっと薄れているのかな、と感じる。かつては情報に貪欲だったし飢えていた。それが今、どこにいても、ACミランのトレーニングが見られる、レアルのだって見られる。そういうところから、自分がどう工夫していくかっていう意識が今の指導者にあるのかなと思う。徳島県ということではないけれど、それはすごく感じている。僕が25年前、30年前、ビデオを持って行商のように各都道府県を回って、議論して、よしそれをやってやろう、と。いろんな人たちがそれを咀嚼して自分流に変えていった。それが今、協会がこう言っている、Jの人がこう言っている、というのをそのままコピーのようにやる・・・。この違いは大きくて、それを徳島流に変えていく、自分のクラブ流に変えていく、自分の学校用に変えていくっていう工夫をちゃんと指導者がしていかなくてはいけないんじゃないか。その工夫をしているところで育つ子どもは、自分で工夫する選手になっていく。指導者のレベルアップを図らなければいけないと改めて思っている。

-徳島ヴォルティスについて

予算規模等を考えて、J1に入るか、入らないかっていうところのチームだと思っている。大塚製薬が後ろにいるということを考えると、J1に入ったらそこのサポートも違ってくると思うし、可能性のあるクラブだと思っている。

ただ、これはヴォルティスには限らないが、地方のクラブは地元の選手がもっと増えていかないと応援してくれる人が増えていかないんじゃないか。やはり「おらが町のチーム」で、そこから育った選手が多くいるっていうんだったら、本当に応援したくなると思う。

今、Jリーグも「ホームグローイングプレーヤー」制度を検討している。ヨーロッパの制度はちょっと違うのをイメージしているようだが。地元選手を増やしてみんなが応援する。逢坂先生(逢坂利夫徳島県サッカー協会長)もおっしゃっていたが、徳島の小中高校を出た子が1人チームに入れば、多分何百人かはついてくる。家族はもちろん、小中学校の先生や同級生が試合を見に行こうとなる。地方のクラブのあるべき姿、地方のクラブの取るべき道っていうのがあると思っていて、自分たちのクラブで育てる、あるいは地元で育った選手たちをどうクラブに入れていくかっていうことが、今後、地方クラブにとって一番重要なことじゃないかと思う。レッズやアントラーズ、ガンバやセレッソみたいなビッグクラブになれば、海外からいい選手を買ってどうしようかっていう議論になってくるけれど、そんなに資金力があるわけないのだから、自前の選手をどうつくり、地元で愛され支えられるクラブになるかっていうことが大事だと思っている。

-今年のヴォルティスはサッカーが面白く、昇格争いをしているが、観客動員になかなかつながらない。ヒントはあるか

ヴォルティスが、というわけではなく、地方のクラブはJ設立の原点である「地域に根ざす」っていうのをもう一度やっていくことがヒントになるのかなという気がしている。プロ野球の日本ハムやDeNAみたいに、ほかのスポーツ種目から学ぶことがあるかもしれない。人が足りない、お金がないとだけ言っていたら、いつまでも地方の小さなクラブで終わってしまう。地方なら地方なりの、小粒だけどぴりっと、っていうようなクラブができるはずだと思っている。

―スタジアムについて

いいスタジアムはほしい。陸上トラックがあるのが悪いとは言わないが、都市型でサッカー専用、しかもサッカーだけじゃなくて毎日人が集まるような、そんな施設があるというイメージをもたなければいけないと思う。そういうスタジアムができれば相乗効果として市民の方が応援するかもしれない。