米ハワイ州で開かれた環太平洋連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は、日本など参加12カ国による大筋合意に至らず閉幕した。新薬データの保護期間や乳製品の取り扱いをめぐる対立が解けなかった。

 TPPは、一部の例外を除いて輸入関税を撤廃し、貿易や知的財産保護など多岐にわたるルールを統一する包括的な経済連携だ。

 合意すれば、太平洋を囲む巨大な貿易圏が誕生し、人や物の行き来が活発化するが、各国の基幹産業への影響も大きい。利害調整が難航するのは予想されていたことだ。

 日本は、コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、サトウキビなどの甘味資源作物の農業重要5項目を守る立場にある。安易な妥協は排し、強い姿勢で交渉を続けなければならない。

 日米の2国間協議では、重要品目の牛・豚肉の関税が大幅に引き下げられる方向となったが、具体化は先延ばしされた。逆に、日本から米国に輸出する牛肉の関税の将来的な撤廃も検討されている。

 このほか、乳製品をめぐって、酪農大国のニュージーランドが米国や日本、カナダに大幅な市場開放を求めた。日本は譲歩案を示したが、ニュージーランドに拒否された。

 日本が米国に要求している自動車・部品の関税撤廃も残された論点である。

 合意を阻んだ最大の課題は、医薬品の中で最も高価なバイオ新薬に関するデータの保護期間だった。

 米国が国内の製薬大手会社に配慮して12年の保護期間を求めたのに対し、安価なジェネリック医薬品(後発薬)を開発したいオーストラリアなどは5年を主張し、折り合わなかった。

 安価な後発薬は所得水準の低い新興国などでは国民の命綱だ。人道的な観点からも米国は譲歩を迫られよう。

 甘利明TPP担当相は「もう一度会合が開かれれば、すべて決着すると思う」との見通しを示したが、大切なのは合意時期ではなく着地点だ。

 2010年3月に始まったTPP交渉に、日本が参加したのは13年7月と遅かった。国民の未来と国益をかけた交渉を急ぐ必要はない。

 各国に固有の事情もある。米国は来年11月の大統領選挙を控え、早期に交渉を妥結させたいようだ。マレーシアは政権の安定を優先し、今回の合意にこだわらなかった。

 日本では国論を二分している。JAは、安価な輸入産品が増え、農業が大打撃を受けるとして強く反対。一方、経団連や日商は、市場拡大と成長を見越して賛成している。

 安倍政権はTPPによる成長戦略を描くが、合意に至ったとしても、失うものが多ければ経済にはマイナスだ。

 交渉では21分野31章に及ぶ各分野の大半が決着、もしくは決着の方向だ。残る分野があるのは各国が譲れない一線を守ろうとしているからだ。

 日本の事情を鑑みれば一概に非難もできまい。必要なのは国民が理解できる合意だ。