集団的自衛権の行使に道を開く安全保障関連法案が、自民、公明の与党と次世代の党など野党3党の賛成により、参院特別委員会で可決した。

 民主など野党5党が抵抗し、多くの国民が懸命に反対の声を上げる中、数の力で押し切っての強行採決だった。

 与党は参院本会議で採決し、成立させる方針だ。

 しかし、法案は日本の安全保障政策を大きく転換させ、国の針路を変えかねない重大な意味を持つものである。

 与党は国会審議に十分な時間をかけたという。そうかもしれないが、肝心の中身は、同じ言葉を繰り返す不誠実な答弁や訂正、撤回が相次ぐなど、とても充実しているとはいえないものだった。

 その中で明らかになったのは、あまりに欠陥が多い法案だということである。

 このままでは日本の将来に禍根を残す。成立させてはならない。

 ◎広がる「反対」の叫び

 国会周辺には、きのうも朝からたくさんの国民が詰め掛けた。サラリーマンや学生、主婦、高齢者と職業、年齢はさまざまだ。

 従来の集会やデモは、労働組合や各種団体などに動員された人が中心になっている例が多かった。今回は様相が随分違う。

 「戦争させない」「9条壊すな」といった共通のプラカードは見られるものの、一人一人が自分の意思で足を運んでいる。こうした光景は、これまであまりなかったことだ。法案の危険性に気付き、懸念を抱く人が増えている証しに違いない。

 特に目を引くのは若者の姿だ。大学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」の中心メンバー、奥田愛基(あき)さんは、国会前の壇上で「憲法を守った方がいいというのは極端ですかね。偏ってますかね。利己的ですかね」と問い掛けていた。

 徳島市内で開かれた集会では「戦争になれば若者が行くことになる。これは自分たちの問題だ」と話す男子大学生がいた。自らに直接関係する法律だと切実に感じている。

 同じ集会で、幼子を連れた女性は「母親として、戦争で子どもの命を失うことだけはさせない」と語った。60代の男性は「70年間守ってきた平和のバトンを、子どもたちに引き継がなければ」と力を込めた。

 安倍晋三首相は、法案の成立で抑止力が高まり、日本はより安全になると主張しているが、全く逆だと受け止めている人が多いということだ。


 ◎徴兵制は絶対ないか

 憲法学者の長谷部恭男・早稲田大教授は、法案の成立で米軍と行動を共にする自衛隊員のリスクが高まるとし、隊員になる人員が足りなくなれば「徴兵制は政策上の選択肢になり得る」と述べている。

 旧防衛庁で防衛研究所長を務めた小池清彦・新潟県加茂市長も「死傷者は確実に出る。その結果、徴兵制の復活は決して空論ではなくなるだろう」と語っている。

 若者や母親たちが抱く不安は、決して非現実的で荒唐無稽なものではない。

 これに対して、安倍首相は徴兵制について「いかなる安全保障環境の変化があっても」「合憲になる余地は全くない」「導入はあり得ない」と反論する。

 だが、歴代内閣が憲法上、許されないとしてきた集団的自衛権の行使を、安保環境の変化を理由に、許されるとしたのは首相自身である。しかも、本来は憲法を改正しなければできないようなことを、憲法解釈変更の閣議決定で済ませてしまった。

 「法的安定性は関係ない」と公言した首相補佐官もいた。安倍首相の側近であり、法案作成に重要な役割を果たした人物だ。

 これで、安心しろという方が無理である。不安の声が日増しに高まっているのは当然だろう。

 与党議員の間には「法案が誤解されている」との声がある。ばかにしてはいけない。国民は、正確に理解しているから異を唱えているのだ。

 それを無視し、誤解しているのはどちらなのか。国民の声に背を向ける政治家はいらない。