厳正、公正であるべき司法試験の信頼を、根底から揺るがしかねない事件が起きた。

 司法試験の考査委員で、憲法の問題作成を担当した明治大法科大学院の男性教授が、教え子だった女性受験生に、論文問題などの内容を漏えいした疑いが明るみに出た。2人は漏えいを認めている。

 教授は考査委員を解任され明治大を懲戒免職になったがそれで済むものではない。

 東京地検特捜部は国家公務員法(守秘義務)違反などの疑いで、元教授の捜査を始めた。過去に漏えいがなかったかも含めて、徹底的に事件にメスを入れてもらいたい。

 法務省は、秘密保持などの問題点を洗い出し、再発防止策を講じなければならない。

 元教授は、試験前に4、5回、憲法分野の論文式試験の対策を女性に個別指導したとされる。法務省の調査に「教え子に好意があり、合格させてあげたかった」と説明している。女性受験生も今年の試験で出題される問題だと気づいていたという。

 金銭の授受などはなく、元教授が一方的に漏えいしたとみられている。

 マークシートの短答式試験の憲法分野では満点だった。女性受験生は採点対象から除外され、今後5年間は司法試験の受験を禁止される。

 憲法分野の問題を作成する考査委員は13人で、元教授は取りまとめをする「主査」だった。問題作成と採点の両方に関与し、他の委員が作成した問題を見ることができた。

 問題の漏えいが起きる素地は十分にあったといえる。

 事件が受験生に与えた影響は小さくない。決定的な不正ではなくても、不公平な指導が他にもあるのではという疑念が生じたからだ。

 2007年には、慶応大法科大学院の教授が、試験前に答案練習会を開いて、実際の問題に類似した論点を学生に説明したことが発覚した。

 これを受け、司法試験委員会は考査委員の順守事項を作成し、受験を控えた修了予定者や修了者に指導しないよう求めている。

 それでも、不祥事は繰り返された。法務省の対応が甘かったと言わざるを得ない。

 法相が任命する非常勤の国家公務員である考査委員の在り方に、問題はないのか。

 考査委員には裁判官や弁護士も就いているが、不正が起きる可能性は、教授と他の職種では比較になるまい。ある教授は「やんわりと教えるなど、正直、やろうと思えばいくらでもできる」と明かす。

 法科大学院は定員割れや募集停止が続出し、過当競争の様相だ。考査委員になった教授が、所属する法科大学院の合格率を少しでも上げたいと思っても、不思議ではない。

 事件を受けて法務省が設置した検証チームは、来年の考査委員の構成などを優先的に議論することを確認した。

 当然だろう。考査委員に法科大学院教授を充てることの是非を掘り下げ、不正の芽を摘んでもらいたい。