安倍晋三首相が、看板政策「アベノミクス」の第2ステージとして、新たな「三本の矢」を打ち出した。

 <1>希望を生み出す強い経済<2>夢をつむぐ子育て支援<3>安心につながる社会保障-である。首相は「希望と夢と安心のための新三本の矢だ」と述べた。

 批判が高まった安全保障関連法から、国民受けのする経済、社会保障へと目先を変える狙いだろう。

 しかし、首相は実現に向けた具体策には触れなかった。聞き心地のいい言葉が先行し、現実味や内容が乏しいのでは、とても夢や希望は描けまい。

 「強い経済」に関して、首相は名目国内総生産(GDP)600兆円の実現を目標に掲げた。現在の約499兆円に100兆円超の上積みとなり、強い意気込みを示したように見える。

 だが政府は、名目で年3%前後の成長が続けば、2020年度に594兆円になるとの試算を7月に出している。いわゆる焼き直しである。

 その年3%の成長には、政府内からも非現実的だとの声が出ている。日本が達成できたのは、バブル経済末期の1991年度が最後だ。第2次安倍政権の発足後、実質GDPは10四半期のうち4回もマイナス成長になっている。

 そもそも、アベノミクスは成功したのか。

 円安で大企業は潤ったものの、賃上げは中小企業に広がらず、消費も低迷し、頼みの成長戦略は不発のままだ。「経済の好循環」には程遠く、新たな目標を打ち上げられても戸惑うばかりである。

 「子育て支援」では、女性が生涯に産む子どもの人数を示す合計特殊出生率を、1・42から将来的に1・8に回復させるとした。支援策として挙げたのは、待機児童ゼロや幼児教育無償化の拡大、多子世帯への支援などだ。

 ただ、これらは既に取り組んでいたり、財源不足で成果が十分でなかったりする施策である。充実させるなら財源はどう確保するのか。非正規など、若者の不安定な働き方を是正する必要もあるが、政権の労働政策はそれに逆行していると言わざるを得ない。

 「社会保障」の柱には「介護離職ゼロ」を掲げた。そのため、特別養護老人ホームなど介護施設の整備や人材の育成を進めるとしたが、介護職員の賃金は低く、人手不足の解消は見通せていない。

 厚生労働省は在宅中心の介護を推進しており、本年度の介護報酬改定では、特養の報酬を引き下げた。政策の整合性が問われよう。

 首相は、新三本の矢と同時に「1億総活躍社会」の実現も提唱した。誰もが生き生きと活躍できる社会にすることに、異論はない。だが、格差が拡大するなど、現状とはかけ離れている。

 求められるのは、言葉を飾ることではなく、夢や希望を現実に導く処方箋である。その中身を厳しく点検したい。