医療行為に絡んで患者が亡くなった場合、原因を調査して第三者機関や遺族に報告することを、全ての医療機関に義務付ける医療事故調査制度が始まった。

 大きな目的は、医療事故の再発を防ぐことだ。国民が安心して医療を受けられる環境を整える上で、制度の意義は大きい。事故の検証を通じて、医療の質の向上につなげていきたい。

 ただ、今回の制度にはさまざまな問題が指摘されている。厚生労働省は課題を洗い出し、来年6月に見直す予定だ。運用実態をしっかりと見極め、制度をより良いものにしなければならない。

 制度の議論は、1990年代末以降に全国の大学病院などで医療事故が表面化し、司法当局による立件や訴訟が相次いだことがきっかけで始まった。

 事故の真相解明を願う遺族らと、刑事捜査ではなく専門機関による調査を求める医療関係者双方からの要請もあり、制度を盛り込んだ改正医療法が昨年成立した。

 制度は、第三者機関「日本医療安全調査機構」への事故の届け出と、事故があった医療機関による「院内調査」、遺族への調査結果の報告を義務付けた。機構は、院内調査の結果を分析し、再発防止策の普及啓発などを行う。

 問題なのは、調査対象を「予期せぬ死亡事故」としていることだ。死亡するリスクを説明していたり、カルテに記載していたりして「予期」していた場合は、機構への報告や院内調査の義務はない。対象とするか否かの判断は医療機関の管理者が行う。

 これでは、医療機関の裁量が大きく、恣意(しい)的な運用になるのではとの懸念が拭えない。「予期」していた場合でも、遺族らに説明を尽くすべきである。

 調査結果の伝え方では「遺族の望む方法で説明するよう努めなければならない」としているが、報告書を渡すことは義務付けていない。

 報告書が警察の捜査や民事訴訟に使われる恐れがある、と反発した医療側に配慮したためだ。

 しかし、専門的な内容が含まれる調査結果を、口頭の説明だけで遺族が理解することは難しいのではないか。

 院内調査では、客観性を確保するため、原則として外部の専門家を入れる。専門家の選定や派遣は、各都道府県の医師会や地元大学病院が支援する。

 その場合、地元医師会の仲間や同じ大学出身者が調査をする可能性がある。専門家の中立性の上で、遺族から疑念を持たれるようなことがあってはならない。一県一大学のケースが多い地方では、より広域で専門家を派遣する体制を構築する必要があろう。

 制度の実効性を上げ、軌道に乗せるには、遺族と医療機関の信頼関係の構築が欠かせない。医療機関は、事故に対して、遺族の視点で真摯(しんし)に向き合わなければならない。