音を頼りに生活している人がいることを、私たちは普段、どれだけ意識しているだろうか。

 今月初め、徳島市の市道で全盲のマッサージ師山橋衛二さん(50)が、盲導犬ヴァルデスと共にトラックにはねられて亡くなった事故を機に、再認識したという人も少なくないだろう。

 山橋さんは、バックしてきたトラックに気付かずにはねられた可能性がある。トラックには後退時に警報音を鳴らす装置が付いていたが、スイッチが切られていた。

 警報音を鳴らさなければいけないという規定はない。だが、もしも音が鳴っていたら、事故は起きなかったかもしれない。

 徳島県の飯泉嘉門知事が、トラックなどを後退させる時に警報音を鳴らすよう義務化する法整備を求める提言書を、国土交通省や警察庁に提出した。

 県議会も「交通弱者を守る交通安全対策の強化を求める意見書」を全会一致で可決している。

 悲劇の舞台となった県からの声だけに、説得力は大きいといえよう。

 事故は全国で反響を呼び、多くの国民が政府の対応を注視している。関係省庁は提言をしっかりと受け止め、早急に法改正の内容を詰めてほしい。障害者が安心して歩ける環境づくりへ、国会も積極的に動いてもらいたい。

 山橋さんは19歳の時に交通事故で視力を失い、数年後に盲導犬と出合った。以来、20年近くにわたり、県内の学校を巡って講演活動を行うなど、視覚障害者への理解を訴えてきた。

 3代目の盲導犬ヴァルデスとは8年以上、一緒に暮らした仲だ。事故に遭った日は10歳の誕生日で、近く引退を控えていた。それだけに、関係者が受けた衝撃と悲しみは大きかった。

 提言では、トラックやバスには警報音装置が付いていない車や、ライト点灯時は音が出ない仕組みの車があるとして、メーカーに設置を義務付ける法改正も求めた。

 さらに、ハイブリッド車や電気自動車など、走行音が小さい車に「車両接近通報装置」の装備義務付けも要請している。

 いずれも障害者だけではなく、お年寄りや小さな子どもたちの安全にとっても、重要な措置といえる。自動車業界は前向きに取り組んでもらいたい。

 事故を受け、県内では県や関係団体が警報音を鳴らすよう運転者に呼び掛けるなど、再発防止への動きが広がっている。

 住宅地などでは警報音が騒音になるとして、スイッチを切るケースがあるという。しかし、人命には代えられない。住民の理解と協力が求められる。

 悲しい事故を二度と起こしてはならない。そのためにも、一人一人が交通安全への認識を深めることが大切だ。