安倍政権が新たな看板政策とする「1億総活躍社会」に向けた議論が、政府の「国民会議」などで始まった。

 政府は今月末に緊急対策を打ち出し、来春に政策をまとめた「1億総活躍プラン」を策定する方針だ。

 安倍晋三首相は、全ての人が家庭や職場などで充実した生活を送ることができる社会を目指すと説明している。

 趣旨に異論はないが、仕事や収入、健康、家庭環境など、個々の事情はそれぞれ異なる。活躍の定義も曖昧で、総活躍と言われても、よく理解できないという国民は少なくないのではないか。

 「1億総活躍」を実現させるため、首相が挙げた「強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」の新三本の矢は、それ自体、重要な政策課題である。

 問題は、格差が広がる中、現状とかけ離れており、実感が湧きにくいことだ。単なるスローガンに終わるなら意味がない。今後、実効ある具体策をどれだけ打ち出せるか、注視したい。

 「強い経済」では、2020年ごろの名目国内総生産(GDP)を600兆円にするとした。現在より100兆円多く、年3%前後の高い経済成長が条件となる。

 法人税率を引き下げ、企業の設備投資拡大や賃上げを後押しするなどの案が出ているが、容易ではなかろう。

 「子育て支援」で掲げたのは、合計特殊出生率を昨年の1・42から将来的に1・8に回復させることだ。待機児童ゼロや幼児教育無料化の拡大などで達成を目指す。

 人口減を食い止めるためには、出生率の向上は欠かせない。しかし、1・8の目標は、政府が昨年末に人口の「長期ビジョン」をまとめた際、個人への押し付けになりかねないとの批判を受け、取りやめた経緯がある。保育士などの人材確保も課題だ。

 「社会保障」では介護離職ゼロの実現を柱に据えた。特別養護老人ホームなど介護施設の整備や、介護人材の育成に取り組むという。

 ただ、厚生労働省は特養の入居基準を厳格化し、在宅中心の介護を進めるなど、ちぐはぐさは否めない。介護職員の待遇改善も不十分だ。

 難題は財源の確保である。塩崎恭久厚労相は企業に負担を求める意向を示したが、経済界は強く反発している。

 政府は16年度のほか、15年度の補正にも関連予算を盛り込む考えのようだが、財政健全化の視点を忘れないでもらいたい。

 各省庁には「1億総活躍」を名目に、多くの予算を得ようとの動きがあるという。従来の施策の寄せ集めや焼き直しは許されない。厳しい精査が不可欠だ。

 「1億総活躍」には、来夏の参院選をにらみ、国民受けを狙っただけではないかとの疑念が消えない。それを払拭(ふっしょく)する総活躍プランにできるのかどうか。政権の力量が問われている。