スローガン倒れにならないよう、きちんと実行してもらいたい。

 安倍晋三首相肝いりの「1億総活躍社会」の緊急対策が決まった。

 首相が掲げた新三本の矢の目標のうち、「介護離職ゼロ」では、2020年代初頭までに特別養護老人ホームなどの介護サービス利用を50万人分増やす。

 厚生労働省が当初示したのは40万人分増やす案だった。自治体の整備計画や介護離職の原因を分析した上での数字である。

 ところが、首相らの意向を受けて厚労省が急きょ50万人分に上方修正した。切りのいい「数合わせ」の印象は拭えない。達成できるかどうかは疑問だ。

 介護のために仕事を休む介護休業は、複数回に分けて取得できるようにする。休業中の給付金も賃金の40%から67%に引き上げて、仕事と介護が両立できるよう支援を強める。心強い施策といえよう。

 20年代半ばまでの「希望出生率1・8」の実現も難しい課題であり、不妊治療助成を拡充する。待機児童の解消に向けて、認可保育所、企業内保育所などを整備し、17年度末までの5年間に40万人分の受け皿を確保するとした計画を、50万人分に見直す。

 育児休業を、派遣など非正規労働者にも取得しやすくする取り組みは歓迎したい。ただ、マタハラが問題化する状況で、どう実効性を担保するのか、具体策が急務だ。

 首相は「内閣の総力を挙げて直ちに実行に移していく」と強調した。

 だが、効果を上げるためには高いハードルがある。

 厚労省の推計では、団塊の世代が全て75歳以上となる25年度に介護職員は約38万人不足する。保育士も需要がピークを迎える17年度末までに新たに約6万9千人が必要となる。施設整備だけでは不十分で、人材確保が欠かせない。

 低所得世帯の年金受給者への給付金も盛り込んだが、来夏の参院選を意識したばらまきとの見方もある。財源をどうするのか。財政健全化の流れに逆行してはならない。

 20年ごろに「名目国内総生産(GDP)600兆円」を達成するため、最低賃金を年3%程度引き上げ、将来、全国平均で時給千円を目指す。

 最低賃金の底上げを図ることに異論はない。だが毎年、中央最低賃金審議会や地方審議会で、労働側と経営側が1円をめぐる厳しい攻防を繰り広げているのが実情だ。

 法人税の実効税率については早期に20%台に引き下げる方針だ。国際競争力を高める狙いは分かるが、企業だけを優遇して、国民の理解が得られるだろうか。

 1億総活躍社会は、世論を二分した安全保障関連法の強引な採決の後、にわかに看板政策として掲げられた。

 目先を変えた政策で、国民の支持を得る狙いも透けて見える。”付け焼き刃“の批判を払拭する努力を求める。