海行くご神体 衝撃度抜群
一度見たら、忘れない。いや、忘れられない。縦3メートル、直径2メートルもある立派な
男性器の形をしたご神体が、真夏の海をさっそうと駆けていく。牟岐町で毎年7月下旬~8月上旬に開かれる「姫神祭」は奇祭という言葉がぴったりだ。メインイベントの海上パレードでは、若者がみこしのようにご神体を運び、漁船に載せる。ご神体を中心に十数隻が隊列を組み、牟岐漁港から約8キロ離れた牟岐大島に渡る。太陽がぎらぎらと照りつける海を、大漁旗に囲まれながら動いていく光景は圧巻だ。
祭りは町内の磯釣り組合や漁協、商工会、町などが協力し、1968年から始めた。なぜ、男性器の形をしたご神体になったのか。牟岐大島にある奇岩にまつわる伝説に由来している。
伝説の主人公は、京にいる恋人に会うため渡航していた土佐の姫。嵐に遭ったために牟岐大島に避難したものの、天気は一向に良くならない。女性を船に乗せたため、神の機嫌を損ねたと思った船員たちは、姫を置き去りにして出発。ショックを受けた姫が近くの入り江に身を投げると、男性器の形に似た巨大岩が現れたという。
祭りでは、牟岐大島に渡った後、奇岩で神事が執り行われる。ご神体を運んだ若者たちが高さ約6メートルの岩から海に飛び込み、航海安全や豊漁を祈る。
当初、ご神体を「卑わい」と敬遠する住民も多かったが、年々、受け入れられるようになったという。90年には、愛媛県であった国民文化祭の会場に「日本の海の祭り」の一つとしてご神体が展示され、県南を代表する祭りになった。
ご神体は、地元の住民が竹と和紙で作った。最初の頃は毎年、作り直していたそうだが、最近は同じご神体が使われ、祭りの日以外は町内の倉庫で保管されている。
町職員に倉庫まで案内してもらい、じっくり見ると、形がとてもリアルで迫力満点だ。写真を撮っていると、誰ともなく「僕のものより立派やな」「何度見てもほれぼれする」などと冗談が飛び交う。倉庫は笑い声でいっぱいになった。
一度見たら忘れられず、再び足を運ぶ写真愛好家や観光客は多い。主催者代表で町観光協会の木内昌文会長(65)=中村=は「多くの人に支えられ、半世紀にわたって続けてこられた。今後も、わが町の祭りとして盛り上げていきたい」と意気込む。
全国各地に奇祭は数多くあるが、衝撃度は折り紙つき。一見の価値ありだ。