集落見守る「神さん」 300年超、住民と共に

 那賀町海川の海川(かいかわ)八幡神社には、立派な2本の杉がそびえ立つ。小高い丘にあ

る神社の拝殿の東側にあり、2本とも幹回りは約5・5メートル、高さは約40メートル。樹齢は300年を超えるという。川のせせらぎや鳥の鳴き声が聞こえる静かな集落を、2本の杉は温かく見守っているようだ。

神社の東側に住む水口昇(あがる)さん(76)=ユズ生産者=は、神社の敷地内にあった上木頭中学校に通っていた。境内にある神聖な杉を「神さん」「大杉」と親しみを込めて呼ぶ。「自分と一緒に育ってきたような木だ」と水口さん。

実は敷地内には立派な杉がもう1本あったが、水口さんが中学生だった頃に伐採された。理由は分からないが、杉は細かく切断され、中学校のストーブのまきとして使われたという。

2本の杉は残った。近くの80代の男性によると、各地に被害をもたらした昨年10月の台風21号が県内に最接近したとき、杉は見たことがないほどしなった。枝が落ちるなどの被害はあったが、幹はしっかりしている。「不思議なもんじゃ」と男性はつぶやく。

神社から2キロほど西にある上海川は、平家の落人が開拓したという伝説がある。旧上那賀町誌には「株田権之丞(ごんのじょう)と日裏弥十郎、夏伐(なつぎり)名手介、大西右近の4人がいたという言い伝えがある」との記述がある。

こんな伝説も残っている。4人は落人と知られるのを恐れ、山小屋に住んでいた唯一の老人と娘を斬り殺した。その後、海川谷の淵に娘の首が現れ、どうしても下流に流れない。4人は新田神社を建て、2人の霊をなぐさめた。その後、新田神社が合祭されたのが海川八幡神社だ。

神社では、毎年11月28日に秋祭りが行われる。拝殿からご神体をみこしに乗せ、境内の西側にある「お旅所」まで連れて行く。後ろには10~20人が担ぐだんじりと、太鼓やかねをたたく氏子たちが付く。にぎやかなおはやしを奏でながらお練りを行う。

みこしをお旅所に置いたら、だんじり、太鼓、かねで大杉との間を3往復する。氏子たちは、往復するたびに食事や酒を飲み、ご神体をゆっくりさせる時間をつくる。水口さんは「祭りは日々の生活のねぎらい。盛大にしてきた」と振り返る。

昨年も伝統のお練りは続いた。しかし、だんじりの担ぎ手は30~40代の青年だけでは足りず、上の世代が手伝わざるを得なくなっている。「戦時中も変わらず受け継がれてきた祭り。後世にも受け継いでいかないと」と水口さん。青空にまっすぐ伸びる2本の杉を見上げ、決意を語った。

海川八幡神社にそびえたつ2本の杉。集落を温かく見守っているようだ=那賀町海川