一つの嘘(うそ)を通すには、20もの嘘を重ねる必要があるそうだ。供述がめまぐるしく変わったのも、そのためだろう

 滋賀の人工呼吸器外し事件の再審開始が確定した。「もう、嘘は絶対につかない」。入院患者を殺害したとして2004年に逮捕され、裁判で懲役12年の判決が確定し、服役した元看護助手の西山美香さんは誓う。再び開かれる公判で無罪となる公算が大きい

 それでも失われた15年は戻ってはこない。殺人犯の汚名とともに過ごした20代は取り返しがつかない。なぜ嘘をついたのか。西山さんはこう言う。身の上話を親身に聞いてくれる捜査員に好意を抱き、話を合わせるうちに「人工呼吸器のチューブを外した」と”自白“してしまった

 嘘は自分の立場をよくするためにつくのが普通だ。悪くするような嘘をなぜ、と不思議に思う。しかし、これを特別なケースと片づけていては冤罪(えんざい)はなくならない

 人は、実にさまざまな動機で嘘をつくものらしい。取り調べという特異な状況では、異常な心理が働くこともあろう。自白に依存しすぎた捜査は、逆に真実から遠ざかる。この事件は、その典型といえるかもしれない

 こうしたケースは今後も起こり得る。取り調べの録音・録画(可視化)だけで十分だろうか。過ちを防ぐには、弁護士の立ち会いも検討すべき時期ではないか。