◆夜行バスの苦い思い出
突然ですが、記者(30代半ば、女性)は飛行機が苦手です。東京に出掛けるときはちょっとした覚悟が必要です。バスなら乗車後10分足らずで寝られる便利な体。「夜行バスで行けばいいじゃない」と思われるかもしれませんが、夜行バスには苦い思い出があるのです…。
10年ほど前、金曜夜に徳島を出発し、土曜に東京で展覧会とライブを楽しんだ後すぐバスに乗って日曜早朝に徳島に着く、徳島~東京0泊ツアーを敢行。問題は帰りのバスでした。
夏休み中の週末とあってバスは満席。クタクタで乗り込み、迷惑をかけない程度に背もたれを倒してさあ寝よう♪と、一応後ろの乗客に声を掛けました。
「シート少し倒しますね」
すると、後ろの座席から「やめてください!」とまさかの言葉。
「え??」
思わず聞き返すと、はっきりと言われました。「倒さないでください」と。
…あなたはリクライニングをしっかり倒しているのに??
今なら「じゃあ座席を交替しませんか?」と交渉してみるけど、当時は呆気にとられて「はあ…」と引き下がっちゃいました。
バスが動き出してから、寝たかもという頃合いを見計らって、何度かそう~っと背もたれを少しだけ倒そうとしてみたけど、そのたびに座席を蹴られる…。結局徳島まで背もたれを起こしたまま、帰ってきました。
腰が痛い、首が痛い、足がパンパンにむくんでいる…。座席の運が悪かっただけかもしれませんが「今後バスで東京には行くまい」とかたく決意しました。
近年、豪華夜行バスが徳島~東京間を運行していて、後ろを気にせず背もたれを倒せてゆっくり寝られると好評らしい、と聞き、気になっていました。ついに東京出張の機会に、豪華夜行バスに乗ってみることに。本当に寝られるのか、後ろの人に叱られないのか、身をもって体験しよう!
ということで、長い前フリでしたが、豪華夜行バスの体験ルポです。
◆豪華な夜行バスに乗ってみた
豪華バスの名称は、海部観光「マイフローラ」。阿南を始発に、徳島駅前、松茂などを経由し、バスタ新宿(新宿駅)、東京駅までの間を毎日上りと下り各1便ずつ運行しています。
午後10時15分、JR新宿駅新南口直結のバスターミナル「バスタ新宿」で乗車しました。「バスタ新宿」にはコンビニやトイレもありますが、各地へ向かう夜行バスの乗客で混み合っているので時間に余裕をもって行ったほうが安心です。
ステップを上がると、靴を脱ぐように指示があり、靴を預けて座席に向かいます。車体は普通の高速バスと同じ大きさですが、通路の左右に座席は一列ずつ、全12席しかありません。
それぞれの座席は、徳島県産の木材を使った間仕切りとカーテンで個室状態にでき、寝顔をのぞき込まれたくない人も安心です。シートに座ってみると、幅が広く、ゆったり。腰の辺りにはクッションがあり、首回りも安定するように端が少し高くなっているので、長時間の乗車でも疲れにくいです。
座席の前後も仕切られているので、後ろを気にせずに背もたれを倒すことができます。座席の左右にそれぞれ背もたれと足置きのレバーがあり、最大155度までリクライニング可能。記者は150センチそこそこと小柄なので、横になって寝返りもOK。180センチ近くある長身の男性も足を伸ばせるようです。
各席には、使い捨てスリッパ、おしぼり、テレビ画面、大きなブランケットが備え付けられています。コンセントもあるので携帯電話の充電もできます。WiFiも装備。
ただ、テーブルはないので、車内でお弁当を食べたりパソコンを使ったりしたい人は膝の上ですることになるので要注意です。
車内最後尾には、車幅いっぱいを使った広い化粧室があり、大きな鏡と、右側にトイレ、左側には着替えができるスペースを備えています。
走行中2カ所で休憩がありますが、深夜は車内アナウンスをしないため、静かです。記者は、乗車後すぐに横になると、バスの心地よい揺れにあっという間に眠りに落ち、次に目を覚ましたのは鳴門を走行中でした。徳島駅前には午前6時25分到着。首も腰も痛くなく、足のむくみもほとんどありません。さわやかな朝でした。
…と、さもしっかり体験取材したかのように書きましたが、乗車後すぐに熟睡してしまったので寝心地の良さしか伝えられない…。そこで、運行後に整備と清掃を終えた「マイフローラ」を取材させてもらうために、海部観光阿南営業所を訪ねました。
◆どうして豪華バスをつくったの?
話を聞いたのは、海部観光の打山昇会長。長身の男性でも足を伸ばせる座席の広さと快適さにこだわって車両をつくり、2011年春からマイフローラの運行を始めました。1996年に海部観光を創業する前はトラックやバスの運転手をしており、「お客さまから『夜行バスはしんどい』『腰が痛い』という声をよく聞いた」と言います。
「距離と所要時間は変えられないので、快適に楽に過ごせる空間を提供したい」。マイフローラには、そうした思いが込められています。
片道の料金は1万3100円から(変動します)。予約は乗車日の1カ月前から、ウェブサイトや電話、海部観光各営業所などで受け付けています。プライバシーが確保でき、疲れが残りにくいことから、女性やお年寄りの利用が多く、就職活動中の学生からも好評とのこと。現在は夏休み中の予約が次々に入っているそうです。
お出掛けの選択肢に加えてみてはいかがでしょう。