徳島市のあわぎんホールで8月4~22日、浮世絵展「写楽・歌麿とその時代」(徳島新聞社主催)が開かれる。江戸時代中期の浮世絵の黄金期に活躍した謎の絵師・東洲斎写楽の役者絵や、喜多川歌麿の美人画など145点が一堂に公開される。その正体が徳島藩お抱えの能役者・斎藤十郎兵衛とされる写楽の作品を中心に、役者絵と美人画を4点ずつ取り上げ、展覧会の見どころを紹介する。
悪役描く大首絵秀作
今回取り上げる「嵐龍蔵(あらしりゅうぞう)の金貸石部金吉(かねかしいしべきんきち)」は、展覧会の白眉ともいえる秀作。東洲斎写楽が寛政6(1794)年5月、彗星(すいせい)のごとくデビューした際、いきなりまとめて出版した役者大首絵28点のうち一つだ。
大首絵は現代でいえば、歌舞伎役者のブロマイド。花形役者をモデルにするのが通例でありながら、写楽が素材にしたのは主役でも二枚目でもない悪役の嵐龍蔵だった。同年5月上演の狂言「花菖蒲文禄曽我(はなあやめぶんろくそが)」で、借金を取り立てる強欲な金貸し・石部金吉役を演じる様子を描いた。
下がり眉にわし鼻という、写楽独特のデフォルメが効いたユーモラスな容貌。怒っているのか、笑っているのか分からない不思議な表情を生み出している。
背景には高価な雲母(うんも)の粉末を用いた「黒雲母摺(くろきらず)り」を駆使。絵のトーンを重くし、何とかして借金を取り立ててやろう、とたくらむ金吉の心理状態も巧みに表現している。
今回の展覧会の監修を務める中右瑛(なかうえい)・国際浮世絵学会常任理事は「演技の一瞬を切り取った迫真性があり、役者が啖呵(たんか)を切っている表情と演技がうまく描けている」と話している。
(2017年7月30日掲載)
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