世界はどこへ向かうのか。未来への希望よりも、不安をかき立てる米新政権の船出である。

 トランプ米大統領が就任し、ワシントンで演説した。

 強調したのは、国益最優先の「米国第一」主義であり、雇用創出や国境管理などを通じて「米国を再び誇り高く、安全で偉大な国にする」ということだった。

 国民の結束と団結も呼び掛けたが、自由や民主主義、人権といった普遍的な価値には触れなかった。何より、耳を傾けるべき政治理念や、胸に響く理想が語られなかったのは残念である。

 「口ばかりで行動しない政治家」は認めないと述べたように、行動が大事だということだろう。実利優先の姿勢はビジネスマンらしいが、米国再建の具体策は乏しかった。

 超大国が保護主義や排外主義に傾けば、世界の経済や国際秩序が不安定になる。そうならないよう、日本をはじめ各国は新政権の動向に目を凝らし、慎重に対応する必要がある。

 トランプ氏は演説で「忘れられてきた人々も、これからは忘れられることはない」と語った。

 経済成長から取り残された中間層や白人労働者層の間には、移民や企業の海外移転などで職や富を奪われたとの不満が強い。そうした怒りがトランプ氏を押し上げた要因でもある。格差解消が喫緊の課題であるのは間違いない。

 では、雇用確保のために何をするのか。方策の一つが「米国の製品を買おう。米国人を雇おう」だった。

 分かりやすい言葉だが、問題もある。自動車などの製造業はグローバル化が進み、純粋な国産は少ない。外国製品を高い関税などで排除すれば貿易摩擦に発展しかねず、米国経済も打撃を受けよう。

 米国の強さの源は、さまざまな国の人たちを受け入れてきた多様性にある。それを否定すれば、国力が弱まるのではないか。

 新政権は、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を早速、正式表明した。

 協定の内容には疑問もあるが、自由貿易体制は日米双方にとって重要なものだ。米国は今後、2国間協議でTPPより厳しい条件を出してくる可能性がある。日本は毅然と対応しなければならない。

 トランプ氏は演説で「古くからの同盟を強化し、新たな同盟関係も築く」と述べた。

 だが、自国中心主義で臨めば、日本や欧州との関係は揺らぎかねない。ロシアとの接近も火種となろう。米国は、これからも国際社会の主導権を維持していけるのか。大統領の資質が問われる。

 トランプ氏の支持率は40%前後と歴代最低レベルであり、就任に抗議するデモが全米各地で繰り広げられた。

 国民の結束を図り、米国を偉大にする道は険しいだろう。まずは不寛容で攻撃的な言動を改め、信頼を得ることから始めるべきではないか。