米国がこれまで主導してきたのは自由貿易体制である。ところが、トランプ米大統領はこれを修正する構えで、戦後発展してきた世界経済は曲がり角を迎えている。

 トランプ氏は就任早々、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱や、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉という通商戦略の見直しを柱とした経済政策を打ち出した。

 大統領選で訴えてきた既定の路線とはいえ、オバマ前政権からの大幅な政策転換を鮮明にした形だ。

 トランプ氏が掲げる「米国第一」の旗印の下、米国は国際協調から単独主義へ、自由貿易から保護主義へとかじを切り続けるのか。

 他国の事情を勘案せず「米国の利益になるかどうか」だけを基準にするトランプ氏の手法は、成長と繁栄を共にしていこうという世界的な流れに逆行するものだ。

 米国がけん引してきた戦後体制を、自ら乱そうとしているのは皮肉である。先進国ばかりでなく、新興国や発展途上国などへの影響も大きい。

 世界経済に混乱を引き起こすような政策を、国際社会は歓迎しない。

 トランプ政権が発表した基本政策で指摘しているのは、これまでの経済協定によって米国の製造業が工場閉鎖を余儀なくされ、雇用が海外に流出してきたという点だ。

 トランプ氏は行き過ぎた貿易自由化に歯止めをかけて、製造業を復活させると宣言。基本政策には「10年間で2500万人の雇用をつくる」と明記した。

 TPPからの離脱とNAFTAの再交渉も、外国製品の輸入増を食い止めるという狙いがある。

 日本政府は自由貿易の推進でトランプ政権にTPPの批准を促しつつ、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)やアジア各国との通商交渉を加速させる方向だ。

 これに対して、トランプ氏は、TPPの代わりに米国の主張を反映させやすい2国間交渉に持ち込む考えのようだ。貿易不均衡の是正を求めており、自動車や農産物で要求が拡大する懸念もある。

 TPPが発効しなければ、アジア太平洋地域で中国の影響力が強まる恐れもある。

 もう一つ心配されるのは、NAFTAの再交渉である。

 再交渉次第では、これまで米国への輸出拠点としてメキシコに進出してきた日本企業も対応を迫られよう。

 トランプ氏は、トヨタ自動車のメキシコ工場建設を批判するなど個別企業への圧力を強めている。日本政府の交渉力が問われる局面だ。

 米国だけが成長し、米国だけが繁栄する。トランプ氏がそう思い描く路線に、国際社会は呼応すまい。ただ、協調体制を乱せば、米国自体も傷を負うことになるのを忘れてはならない。

 トランプ氏が取り組まなければならないのは、これまで主張してきた通商戦略を問い直すことだろう。