米国は歴史的に広く移民を受け入れてきた。その寛容の精神に反するトランプ大統領の政策である。

 イスラム過激派などテロリストの入国阻止を目的として署名した大統領令が、世界中に大きな混乱を巻き起こしている。

 全ての国からの難民受け入れを120日間凍結し、内戦下のシリアの難民は無期限で停止する。シリアやイラク、ソマリアなどイスラム圏7カ国からは、一般市民の入国も90日間禁止する-。

 乱暴過ぎる措置だと言わざるを得ない。

 突然の大統領令を受け、米国各地の空港で当局がイラク人らを拘束した。空港や係官によって対応が違う場合もあり、動揺が広がった。

 イスラム諸国をはじめ国際社会が反発したのは当然である。米国内でも市民らが大規模なデモを行い、大企業のトップが反対の意向を表明するなど事態は深刻化している。

 入国拒否はかえってイスラム世界との対立を深め、テロを誘発しかねない。思慮を欠いた判断であるのは明白だ。

 トランプ氏は国内外の声に謙虚に耳を傾け、大統領令を撤回すべきである。

 遺憾なのは、大統領令の擁護を拒否したイエーツ司法長官代行を解任するなど、強気な姿勢を崩さないことだ。

 米連邦地裁では、大統領令の効力を部分的に停止する決定が相次いだ。合憲的な滞在資格を持つ人の強制送還停止を命じている。良識ある司法の判断は救いである。

 ニューヨークなど15州と米首都の司法長官は、信仰の自由を侵害し「危険で憲法違反だ」と非難する共同声明を出した。西部ワシントン州は大統領令を違憲だとして、初の提訴に踏み切った。最高裁が違憲判断を示せば、大統領令は無効化される。

 地方州が異例の行動を起こしたのは、トランプ氏の政策への強い不信感の表れだ。

 議会も、大統領の暴走に歯止めをかける役割をしっかりと果たしてもらいたい。民主、共和両党からも批判が噴出し、上院民主党トップは大統領令を覆す法案を提出すると表明した。

 世界の航空会社も苦慮している。全日本空輸と日本航空は7カ国の旅客に対し、米国行き航空機への搭乗を原則として断る方針を決めた。

 日本政府の対応も試されよう。安倍晋三首相は参院予算委で「直ちにコメントすることは差し控えたい」などと述べた。10日の日米首脳会談を前にトランプ氏を刺激したくないのだろう。

 しかし、フランスのオランド大統領が、トランプ氏との電話会談で今回の措置を批判したほか、英国のメイ首相も報道官を通じて「同意できない」と表明するなど同盟国からも同様の声が上がる。

 日米関係が重要なのは言うまでもない。だが、トランプ氏の偏った政策や法外な要求には「ノー」を突き付けなければならない。