唯一の戦争被爆国として核兵器の廃絶を訴えてきたのに、一体どうしてなのか。
 
 核兵器を非合法化し、廃絶を目指す「核兵器禁止条約」の制定に向けた国連の初の会議で、日本政府は交渉不参加を表明した。
 
 会議で演説した日本の軍縮大使は、核兵器保有国が参加しないまま交渉を進めれば国際社会の分断が深まるとし、「建設的かつ誠実に参加するのは困難」と不参加の理由を述べた。
 
 これには賛同できない。核兵器の非人道性を世界で最もよく知る日本だからこそ、交渉に参加して、保有国と非保有国との懸け橋になる必要があるのではないか。
 
 交渉は始まったばかりであり、まだ遅くはない。6~7月に開かれる次回の会議から参加するよう、政府は方針を転換すべきである。
 
 初の会議では、長崎で被爆した日本原水爆被害者団体協議会の藤森俊希事務局次長が「同じ地獄をどの国の誰にも絶対に再現してはならない」と訴え、条約制定の必要性をアピールした。出席した110を超える国・地域の代表者らの胸を打ち、大きな拍手が起きた。
 
 対照的に、日本の大使の演説への拍手がまばらだったのは当然だろう。
 
 条約は核兵器の開発や実験、使用などを違法とし、全面的に禁止しようとするものだ。昨年10月の国連総会第1委員会で、制定交渉の開始が賛成多数で採択された。
 
 賛成したのはオーストリアなど113カ国である。これに対して米国やロシアなど核保有国と、米国の「核の傘」の下にある日本や北大西洋条約機構(NATO)諸国など計35カ国が反対し、中国やインドなど13カ国が棄権した。
 
 圧倒的多数の国が賛成した背景には、一向に進まない核軍縮へのいら立ちがある。
 
 核拡散防止条約(NPT)は、米ロなど核保有五大国に核軍縮の交渉を誠実に進めるよう義務付けているが、利害の対立などで停滞している。
 
 2015年には、ロシアのプーチン大統領がウクライナ危機に絡み「(核兵器の)準備ができていた」と発言し、昨年登場したトランプ米大統領は核戦力の拡大に意欲を示すなど、逆行している。
 
 核保有国などは、NPTの枠組みの中で核軍縮を進めるべきだと主張するが、これでは説得力に欠けよう。
 
 核保有国が加わらない条約には意味がないとの見方もある。だが、生物・化学兵器や対人地雷、クラスター弾を非合法化した禁止条約が、着実に成果を上げていることを忘れてはならない。
 
 核兵器を違法とし、非人道的で正当性がないとする国際規範が確立すれば、保有国だけではなく保有をもくろむ国への大きな圧力となる。
 
 日本は世界の指導者に、広島、長崎への訪問を呼び掛けている。後ろ向きではなく、条約制定の先頭に立つことが被爆国の使命である。