北朝鮮情勢が緊迫する中、韓国の大統領選が告示された。朴槿恵(パク・クネ)前大統領の罷免に伴う出直し選挙である。

 立候補したのは革新系最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)、中道野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)両氏らだ。来月9日の投開票に向けて、あすから22日間の本格的な選挙運動期間に入る。
 
 挑発を繰り返す北朝鮮に対して米国が空母を派遣するなど、朝鮮半島の緊張はかつてなく高まっている。前大統領の罷免を巡って生じた国民の対立は、和らぐ気配がない。
 
 新たなリーダーは激震を収め、国民の融和を図ることができるのか。日本にとって最も重要な隣国であり、日韓関係に大きな影響を及ぼすだけに、選挙の行方を注視する必要がある。
 
 選挙戦は支持率でトップを走る文氏と、猛追する安氏を軸に進む見込みだ。
 
 文氏が追い上げられているのは、共に民主党の大統領候補を文氏と争った忠清南道(チュンチョンナムド)知事の支持層が、安氏に流れたためとみられる。
 
 背景には、北朝鮮問題に対する国民の危機感がある。北朝鮮に融和的で対話を重視する文氏に、現実的な政策を唱えてきた忠清南道知事の支持層が反発した。
 
 前大統領の逮捕により、保守陣営が弱体化した影響も大きい。保守層は革新色が強い文氏ではなく、中道路線の安氏に向かっているようだ。
 
 安氏は北朝鮮との対話を模索するとしつつ、制裁重視の姿勢を取る。米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を進める方針も鮮明にした。

 一方、配備の見直しを示唆してきた文氏は最近、北朝鮮の出方次第では容認に転ずるとの考えを表明した。中道・保守層を取り込む狙いのようだが、奏功するかどうかは見通せない。
 
 韓国で大統領経験者が逮捕されたのは、朴容疑者で3人目だ。自身や身内の不正を追及された経験者も多い。
 
 繰り返される権力の不正は同郷、同窓、親族など、社会に根付く縁故主義の悪弊を浮き彫りにした。同時に、改めて見せつけたのが、大統領に権力が集中する弊害である。
 
 安氏は大統領権限を縮小する必要性を訴え、そのための改憲に意欲を示した。誰が当選しても、思い切った制度の改革と、悪弊の根絶に取り組まなければなるまい。
 
 懸念されるのは、従軍慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した日韓合意を、主要候補の全てが修正すると主張していることだ。
 
 国民の厳しい対日感情の反映ともみられるが、日韓合意は国同士の約束であり、政権が代わってもほごにはできない。誠実に履行しなければ国際的な信用を損なうだろう。
 
 東アジアの平和と安定のため、米国と共に日韓が緊密な連携を図る必要があるのは言うまでもない。各候補には、未来志向を忘れず、冷静で賢明な対応が求められる。