日米経済対話が始動した。「米国第一」を掲げ、環太平洋連携協定(TPP)離脱を決めたトランプ米政権との経済関係を強化していく上で、試金石となるものだ。

 対話では、貿易の「2国間枠組み」を協議していくと明記した共同文書を発表した。双方は、貿易・投資のルールや、経済・構造政策、分野別協力の3分野で協議を進め、近く具体的な成果を出すことで一致した。

 日米は経済関係で連携、協力をどう深化させるのか。互いの利益を損なうことなく、アジア太平洋地域の成長にも寄与する道を、しっかりと探らなければならない。

 日米の隔たりは大きい。安倍政権が米インフラ投資などへの貢献を重視し、日本企業の商機をうかがうのに対して、米国は日本の農産物・自動車市場の開放に狙いを定めているからだ。

 ペンス副大統領は「将来、日米自由貿易協定(FTA)交渉を始める可能性がある」と表明した。

 FTAは輸入関税の引き下げや非関税障壁の撤廃などを互いに約束する取り決めである。対日貿易赤字の削減を優先課題とする米国は、FTA交渉に引き込み、市場開放圧力を強めていく考えだろう。

 日本には、コメや牛肉などで、TPPを超える水準の輸入枠拡大や関税引き下げを迫られるという警戒感が強い。米国が閉鎖性を批判する自動車市場についても、米国車の輸入を増やす措置を講じるのは難しい。

 FTAを巡っても、日本は自由な貿易・投資ルールをアジア太平洋地域に広げることを重視しており、立場の違いは明らかだ。

 米国が離脱したTPPに関しては、米国を除く11カ国で協定発効の方向性を打ち出そうという流れも出ている。

 麻生太郎副総理兼財務相は「日米関係は摩擦から協力に変わった」と述べたが、交渉で米国が一方的な譲歩を求める事態も予想される。安倍政権の経済外交が問われる。

 さらに、対話では話題に上らなかったようだが、トランプ政権の為替政策を注視していく必要がある。

 最近の円安ドル高に対するトランプ大統領の不満は根強いという。円安の要因となっている日銀による金融緩和策が、俎上(そじょう)に載せられる可能性がある。

 今回の対話は、緊迫化する北朝鮮情勢への対処で日米同盟の強化が優先され、米側の陣容が固まっていない状況で行われた。

 このため、いわば摩擦の火種は次回の会合に持ち越された形だが、米国が難題を突き付けてくる恐れはある。

 北朝鮮を巡る緊張が高まっている中で、日本は、安全保障で依存する米国の要求を和らげる方策に苦慮せざるを得ないのが現実だ。

 オバマ前政権時代とは一変した日米の経済関係をどう再構築し、発展させるか。両国の知恵が試されよう。