長崎県の国営諫早湾干拓事業は、国の無定見な姿勢を示す典型的な施策だと言える。
 
 広大な干拓農地の造成と、高潮に備えた防災対策のために、有明海の諫早湾の奥を全長7キロの潮受け堤防で閉め切って、20年が過ぎた。
 
 漁業者らは、有明海の漁業不振は堤防の閉め切りが原因だとして、潮受け堤防排水門の開門を求めてきた。これに対し、干拓地の営農者らは、海水が流れ込んで塩害が生じると主張し、開門に反対している。
 
 両者の対立は根深いが、何とか歩み寄れないものか。
 
 長崎地裁は、排水門の開門の差し止めを求めた営農者側の訴えを認め、開門しないよう、国に命じる判決を言い渡した。
 
 潮受け堤防を巡っては、漁業者が起こした別の訴訟で2010年、福岡高裁が3年間の猶予期間を付けて開門を命じる判決を出した。国が上告を断念したことで、判決は確定した。
 
 しかし、13年には長崎地裁が営農者の訴えを認めて、開門差し止めの仮処分決定を出している。
 
 国は、開門命令と開門禁止の相反する義務を負ったとして、開門を見送ってきた。「最高裁の統一的な判断が必要」との姿勢である。
 
 開門を巡る裁判は今回の訴訟のほかに、6件もある。国は判決を待つのではなく、打開策を模索すべきだろう。
 
 昨年1月、長崎地裁は開門しないことを前提に、「国が開門に代わる漁業環境改善措置を取るべきだ」として、漁業者、営農者と国に和解を勧告している。
 
 国は有明海の水産資源の回復に使う100億円の基金を提案したが、関係者の理解は得られず、今年3月に和解協議が決裂した。
 
 漁業者も営農者も、和解での決着が望ましいとの立場では一致している。
 
 仕切り直しをして、国が新たな案を提示する余地はないのか。
 
 漁業者は、開門義務を履行しない国に制裁金を支払わせるよう申し立て、最高裁で確定した。既に7億9000万円が支払われている。
 
 開門する場合には国に制裁金を支払わせるという、営農者の申し立ても確定した。
 
 これでは、国民の負担が増すばかりである。
 
 今回の長崎地裁判決への対応について、山本有二農相は控訴するかどうか、明言していない。
 
 漁業関係者は、国が控訴を見送り、開門禁止の判決を確定させることを警戒する。
 
 一方、営農者側弁護団は、確定した場合には、「開門命令の執行力は失われる」と指摘する。
 
 長年、漁業者と営農者は国の政策に翻(ほん)弄(ろう)されてきた。
 
 諫早湾干拓事業を推し進めてきた国には、対立を収拾する責任があるはずだ。司法任せにすることなく、速やかに政治解決へとかじを切るべきである。