日ロ間で最大の懸案の北方領土交渉は事実上、棚上げにして経済協力を進める-。

 そんな手法で、領土問題に関して強硬姿勢を崩さないプーチン大統領の軟化を促すのは容易ではあるまい。

 安倍晋三首相とプーチン氏が、モスクワで首脳会談を行った。北方領土での共同経済活動の実現に向け、5月にも日ロ合同の官民調査団を派遣することで合意した。

 元島民の北方領土へのビザなし訪問についても、従来のチャーター船に加え、航空機の利用も始める。

 船で4島を訪れる際に、現在は国後島沖に限られている入域手続きを拡充し、歯舞群島付近にも新設する。

 高齢化が進む元島民らにとって、墓参などの利便性が高まる措置は歓迎したい。

 日本政府は、4島での共同経済活動を北方領土問題解決への「重要な一歩」と位置付けている。

 4島で人的交流を活発化させ、経済協力を強化して、領土返還を含む平和条約締結交渉の進展を図る構えだ。

 首相は首脳会談後の記者発表で、共同経済活動で検討する事業として、豊かな4島の自然を活用した「エコツーリズム」などを例示した。

 それも必要かもしれないが、本当に領土交渉の後押しになるものなのか。

 首相は、日ロ平和条約について「新しいアプローチを通じて国民間の信頼を増進させ、2人の間で締結したい」とも強調した。

 その融和的な姿勢が実を結ぶかどうかは疑問もある。締結交渉は昨年8月を最後に開かれておらず、日本がロシアに再開を求めても、同意が得られないのが現状だ。

 昨年12月、首相の肝いりによって地元の山口県長門市で開かれた日ロ首脳会談で、領土交渉が期待外れの結果に終わったのは記憶に新しい。

 来年に大統領選を控えたプーチン氏が、国内的反発が予想される領土問題であえて譲歩することはないだろう。

 それどころか、ロシアは、北方領土で実効支配を強めているように見える。択捉島で軍民共用の空港を整備し、択捉、国後両島には新型ミサイルも配備した。

 ロシアはクリール諸島(北方領土と千島列島)を、シーレーン防衛の拠点としており、今後、軍備を増強する恐れさえある。

 領土問題よりも経済協力への関心を強めているのが実情だ。だが、ロシア側の都合によって、領土問題が置き去りにされるのは困る。

 北朝鮮情勢を巡って両首脳は、国連安全保障理事会の決議を完全に順守し、挑発行為を自制するよう求めることで一致した。

 日本周辺の安全保障の観点からも、ロシアとは良好な関係を維持すべきだ。

 しかし、ロシアが日本から経済協力を引き出しながら、北方領土の実効支配をさらに固めていくような事態は、避けなければならない。