天皇陛下の退位を実現するための法整備が具体化し始めた。政府が特例法案の骨子をまとめ、衆参両院議長が各党派に提示した。
 
 骨子では、特例法案の名称を「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」としている。
 
 当初、政府、与党は「天皇陛下の退位」という表現で、今の陛下一代限りであることを明確にする方向だった。
 
 しかし、特例法を先例に、将来的な退位の制度化につなげたい民進党が強く反発したため、国会の提言通りに「天皇の退位」に戻した。
 
 政府、与党は、全会一致かそれに近い形で特例法の今国会成立を目指している。
 
 国会の提言は尊重されるべきであり、民進党の意見に配慮したのも当然である。
 
 公務など活動に対する陛下の「ご心労」としていた当初案の表現も、国会見解を重視する民進党に譲歩して「お気持ち」に変更。「国民は陛下のお気持ちを理解し、共感している」とした。
 
 政府の有識者会議は、一代限りの退位に向けた提言となる最終報告を、安倍晋三首相に提出している。
 
 最終報告は、退位後の呼称(称号)を「上皇」とし、象徴としての行為を新天皇に全て譲るという内容だ。「上皇」には「なお院政をイメージするとの意見もある」とした上で、「象徴天皇であった方を表す新たな称号」と位置付けている。
 
 退位後の天皇には、皇位継承資格や摂政・臨時代行に就任する資格を有しないのが適当との見解も示している。公務継続が将来的に困難になるという退位の理由と矛盾するとの観点からである。
 
 皇后さまには、上皇の后(きさき)の意味となる「上皇后(じょうこうごう)」の呼称を新設する。歴史上、使われたことのない称号であり、腐心の跡がうかがえる。
 
 皇位継承順位1位の「皇嗣(こうし)」となる秋篠宮さまについても、国民に広く親しまれてきた宮号を維持した上で「皇嗣殿下」などと呼ぶ案を例示した。
 
 退位を巡る論議の発端となったのは、昨年8月の陛下のビデオメッセージだった。その後、議論が尽くせたかどうかは疑問も残る。
 
 国民に退位後の天皇の役割や皇族の呼称について十分説明し、理解を得ることが重要である。
 
 最終報告は、皇族の減少対策の速やかな検討の必要性に言及した。一方で、衆参両院の正副議長が3月にまとめた国会見解に盛り込まれた「女性宮家の創設」などの具体策には触れなかった。
 
 女性宮家の創設を検討課題とする民進党が、削除した意図がよく分からないと不満を示したのは、無理もない。
 
 自民党内には、女性宮家は女性・女系天皇につながるとの懸念が根強い。安倍首相も慎重姿勢である。
 
 安定継承の方策に関して議論を積み重ねながら、国民と共に、あるべき皇室像を考えることが大切だ。