北朝鮮情勢が緊迫する中、日本の「平和主義」が問われる事態が続いている。
 
 あすの憲法施行70年を前に自衛隊の護衛艦が1日、米補給艦を守りながら航行する米艦防護を行った。安全保障関連法に基づく「武器等防護」である。
 
 昨年3月の施行以来、安保法による自衛隊の新任務が実行されたのは初めてだ。
 
 憲法9条が禁じる「武力の行使」につながりかねない任務にもかかわらず、世論の目立った反発はなかった。
 
 安倍晋三首相が強調してきたように、「日本を取り巻く安全保障環境が激変」したためなのか。
 
 しかし、現実を追認するだけでは、憲法の理念が空洞化する恐れがある。求められるのは、いかに平和主義を深化させるかである。そのための議論を冷静に始める時ではないか。
 
 武器等防護は「日本の防衛に資する活動」をしている他国軍の艦船や航空機などを、自衛隊が守る任務だ。
 
 今回は、北朝鮮をけん制するため米軍が派遣した空母打撃群のうち、朝鮮半島から離れた太平洋沖を航行する艦船を対象にした。
 
 安倍政権には、リスクの低い海域で安保法運用の実績を作る狙いがあったとみられる。だが今後、日本海などで実施した場合、自衛隊が他国軍と交戦状態になる可能性は否定できない。
 
 核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対して、米国は武力行使も辞さない構えを見せている。圧力を強めるのは重要だが、それが高じれば不測の事態に陥る懸念がある。甚大な被害を受けるのは日本や韓国だ。
 
 今、日本が担うべきなのは「力による平和」を掲げる米国と一体化するのではなく、外交努力を促す役割ではないか。平和国家としての真価が試されている。
 
 武器等防護を可能にした安保法は、歴代政権が認めなかった集団的自衛権行使も容認した。いずれも違憲の疑いが強いものである。
 
 憲法を巡っては、共同通信社が3~4月に実施した全国世論調査で、安倍首相の下での改憲に51%が反対し、賛成の45%を上回った。多くの国民の反対を押し切って安保法を成立させるなど、首相の前のめりの姿勢に危機感を抱いている表れだろう。
 
 9条改正については賛否が拮抗(きっこう)したが、改正を必要とする理由は「自衛隊の存在明記」が39%に上り、「自衛隊が国際活動をするにあたり、歯止め規定を設けるべきだ」が24%で続いた。
 
 自衛隊を「戦力」ではなく「自衛のための最小限の実力」とする解釈に無理が出てきたのは事実だ。任務や活動範囲は、なし崩し的に広がっている。
 
 国際関係が複雑化する中、戦争放棄と戦力不保持、交戦権否認をうたった9条の精神をどう生かしていくのか。真剣に考える必要がある。