【あなご飯の旅】
(2009年秋取材)
「エキベン、食べたい?」。先輩の言葉に耳を疑った。かつて、エキベンという甘い響きに釣られ、駅便(駅の便所)を見学させられたことがある。しかし今回は「食べたい?」ときた。間違いなく駅弁だ。今度こそごちそうになってもバチは当たるまい。しかも、目的地は宮島(広島県)だ。いいかもしれない。
だが先輩は、にやりといつもの不気味な笑いを浮かべ、1枚の紙を手渡した。「穴子」の文字がずらりと並び、その横に「食べ比べ」。はぁ? 駅弁リスト? 全部? 食べる? とほほ・・・。またまた、肩を落としての出発となった。
リストの最初は岡山駅の「まるまる穴子寿し」。在来線コンコースの売店にあった。煮穴子と焼き穴子が酢飯に載る。一気にかき込んだ。が、味わう余裕はない。岡山駅からわずか1時間の福山駅では二つのノルマが待っている。「焼きあなごめし」と「あなごめし」。弁当を食べるにも体力がいる。車中では、目を固く閉じて眠り続けた。
広島駅の「夫婦あなごめし」は、煮穴子が寄り添うように丸々2本ご飯に並んでいた。おいしい~。穴子の柔らかさにもん絶しそうになりながら、あっという間に平らげた。
宮島口駅から宮島に渡る汽船乗船口まで、徒歩5分の道に穴子めしの店が立ち並ぶ。「うえの」の「穴子飯」を購入。ようやくリストの最後だ。掛け紙に木の折り箱は大正時代の駅弁を復刻したという。
先輩の最終指令は「宮島のシカに囲まれて弁当を食べてこい(証拠写真必須)」。
あとは、船を下りてのんびり弁当を食べるだけ。写真さえ押さえればこっちのもの・・・。ところが。弁当を開けようとして、シカと目が合った。その目が輝いたような気がした。まずい! 弁当めがけてやってくる! 包み紙の上からがぶっとかみつかれた。こんなところで食べられない・・・(泣)。
死守した穴子飯は岡山駅で食べた。香ばしく焼いた穴子と、木の香りがほのかに漂うご飯。おいしい。おいしいけれど・・・きょう何匹めのアナゴ? やっとの思いで食べきって任務完了。五つの弁当、計5520円なり。先輩のにやけた顔が浮かぶ。その顔に胃がもたれてきた。(姫)
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