なぜ、前川喜平前文部科学事務次官らを証人喚問しないのか。自民党の対応は理解に苦しむ。
安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)の国家戦略特区制度を利用した獣医学部新設を巡って、疑問は膨らむばかりだ。
加計学園の選定は公正だったのだろうか。首相の指示や官僚の忖度(そんたく)はなかったのか。
安倍首相は、参院決算委員会で「(首相は)関与できない仕組みになっている。国家戦略特区諮問会議でしっかりと議論がなされ、そこで決まる。介入する余地はない」と強調し、自身の関与を全面的に否定した。
しかし、前川氏の証言にも具体性がある。前川氏は昨年9月、地方創生担当の和泉洋人首相補佐官から突然、首相官邸に呼び出された。和泉氏の執務室で「総理は自分の口からは言えないから、私が代わりに言う」として、獣医学部新設の手続きを急ぐよう求められたという。
文科省OBで当時内閣官房参与だった加計学園理事の木曽功氏からも、文科次官室で前川氏に「早く進めてほしいのでよろしく」との趣旨の話があったとしている。
首相は「(両氏に)私が指示したことはあり得ない」と明言した。
和泉氏は「記録が残っておらず確認できない。記憶にもない」と否定。木曽氏も「獣医学部新設の話で行ったわけではない」とのコメントを出した。
言い分は真っ向から対立している。野党が前川氏らの証人喚問を求めるのは当然だ。偽証すれば刑事訴追の対象になる喚問こそが、真相解明の場である。
前川氏は「官邸の最高レベルが言っていること」などと記された文書について、文科省の幹部間で共有された本物で、確実に存在していたと証言した。
さらに、共同通信の取材に対して、文科省の複数の現役職員が「省内で共有していた」などと証言し、文書の存在を認めた。それでも「出所が分からず、調査しない」と言うのだろうか。
民進党は、加計学園が事業者に認定される前の昨年11月の時点で、文科省が加計学園の選定を前提にしていたとうかがわせる新たな文書も入手した。
文書は、文科相の記者会見などに向けて作成されたとみられる。この時期には、京都府なども新設を要望していたが、愛媛県今治市に関する記述しかないのはどうしてか。
国民は次々に出る証言や文書の真偽を知りたいはずだ。調査に消極的な政府の姿勢は、不信感を高めるだけだ。
国家戦略特区による規制緩和を否定はしない。だが、トップダウンの政策は、ガラス張りでなければならない。
首相が関与していないというのなら、積極的に文書の再調査と証人喚問の実現に向けて、動きだすべきだ。