「築地は守る、豊洲を生かす」。キャッチフレーズのように、分かりやすくしたつもりなのだろうが、ビジョンからは肝心な具体像が見えてこない。
 
 小池百合子東京都知事が緊急記者会見で、市場を豊洲に移転させることを正式に表明した。築地市場の跡地は売却せずに、競りなどの市場機能を持たせ、「食のテーマパーク」といった観光拠点として5年後をめどに再開発する。
 
 新旧の市場を両立させようとする狙いである。
 
 昨年8月に豊洲移転が延期されてから10カ月。問題は一応の決着を見た。
 
 小池氏の決断は、都議選で、移転推進派と反対派の双方から得票を見込める玉虫色のプランとも言える。
 
 自民党からの「決められない知事」との批判に対する小池流の答えでもあろう。
 
 だが、小池氏には振り回されたというのが市場関係者の正直な思いではないか。説明を尽くし、理解を得ることが大切である。
 
 小池氏は「築地の伝統やブランドを守っていく。累積する豊洲の赤字を将来の負の遺産として残してはいけない」と強調した。
 
 豊洲については「安全・安心は未達成だが、安全対策を講じた上で生かすべきだ。冷凍冷蔵・加工の機能を一層強化する」と語り、将来的にITを活用した総合物流拠点を目指すとした。
 
 築地市場は規模が大きく、ブランド力もあって市場の中で特別な地位を占めている。2020年東京五輪・パラリンピックの後に生まれ変わるのなら、歓迎する人は少なくないだろう。
 
 ただ、築地への復帰を希望する業者をどう受け入れるのかは不透明だ。
 
 都は、移転後に、築地市場の土地の売却収入を、豊洲市場の整備のために発行した企業債の返還に充てる予定だった。築地の跡地を売らないのであれば、別の財源が必要になる。
 
 この莫大(ばくだい)な借金をどう返済するのかという記者の質問に対して、小池氏は「ベストなワイズスペンディング(賢い支出)でいきたい」と述べるにとどまった。
 
 これでは説明していないのに等しい。
 
 豊洲市場を巡っては、移転の延期を決定した後、地下水調査で環境基準を大きく超えるベンゼンが検出されるなどして、不安が広がった。
 
 食の安全を確保する手だてを、しっかりと講じてもらいたい。
 
 築地市場の跡地は当面、東京大会の輸送拠点として活用し、競技会場がある臨海部から築地を通って都心部を結ぶ環状2号線を、大会前までに開通させるという。
 
 五輪への悪影響も懸念されていただけに、問題が一つクリアされる形である。
 
 ようやく、打ち出した小池氏のビジョンが、どう評価されるのか。都議選が試金石となる。