香港が英国から中国に返還され、きょうで20年になる。

 香港政府は記念式典で祝賀ムードを盛り上げようと躍起だが、市民の反応は鈍い。影響力を強める中国への反発があるためだ。

 期待と不安の中で始まった「一国二制度」は、大きく揺らいでいる。対中認識の違いによる社会の分裂も進む。

 香港からの訪日客は多い。アジア経済で重要な役割を担う香港の行方は、日本にとっても無関係ではない。

 きょう香港政府トップの行政長官に就任する林鄭月娥氏は、市民が求める民主化を前進させるべきだ。

 中国も過剰な介入をやめ、市民の声に耳を傾けなければならない。

 一国二制度は、社会主義の中国に資本主義を併存させる制度である。

 これに基づく香港の憲法「基本法」は、返還後も50年間、資本主義を維持し、「高度の自治」を認めると規定した。言論や報道、集会、デモの自由なども定めているが、政治改革など重要事案は中国の承認が必要としている。

 民主主義と一党独裁という、全く異なる政治体制を共存させるための知恵と言っていいだろう。

 返還後、10年余りは香港の強い経済力もあり、中国との関係は良好だった。

 変化が見えてきたのは、2008年の北京五輪以降である。経済の急成長で自信を深めた中国が、強硬姿勢に転じたからだ。

 14年には次期行政長官選挙を巡って、親中派以外の候補を締め出す制度を中国が決定し、民主派が大規模民主化デモ「雨傘運動」で抵抗した。

 中国の禁書を扱う書店の関係者が中国当局に拘束されるなど、司法の独立を侵す事例も相次ぎ、対中感情悪化に拍車が掛かった。

 象徴的なのが、今年3月に実施された行政長官選だ。親中派が多数を占める「選挙委員会」による投票で林鄭氏が圧勝したものの、事前の世論調査ではトップの候補に大差をつけられていた。

 中国に事実上指名された林鄭氏への反感は強く、一般市民が投票できる「普通選挙」だったら結果は違っていたとみられる。

 選挙後、香港政府は返還20年を前に、中国に批判的な勢力を徹底的に抑え込む挙に出た。4月には、昨年行ったデモを理由に民主派政党の幹部ら9人を逮捕した。

 だが、これでは不満がますます強まり、中国からの独立論が勢いを増すだけだ。香港政府と林鄭氏に必要なのは、中国の代弁者になるのではなく、市民の側に立って中国と向き合う姿勢である。

 中国の習近平国家主席は、高度の自治を保障すると約束した経緯を忘れないでもらいたい。

 世界が注視する中、香港を一党独裁下に組み込むことはできまい。一国二制度を確かなものにすることこそが、中国の利益になるはずだ。